「――霧島!」
その後ろ姿に声をかけたのは聖だった。
霧島くんは静かに振り向いて、私たちをじっと見つめる。
その瞳はもう見下すような目つきじゃなかった。
「そういえば、俺もひとつだけ気づいたことがある」
霧島くんは言うか言わないか迷って。それでも口にしようと決めたような顔をしている。
「人間は俺たちを差別するように扱う。今はそんな世の中になってしまったんだと思ってた。分かり合うことも、理解し合うのも不可能だと思ってた。でもお前たちを見てると……」
「………」
「不思議と一緒に生きていくことができるんじゃないかと思うよ」
一瞬だけ見せてくれた、小さな笑顔。
意地悪で冷酷で傲慢で、霧島くんはイヤなことしかしないと決めつけていた。
だけど、それは人間と一線を引くためにしていた彼なりの虚勢の張り方だったのかもしれない。
それが分かって、霧島禄という人を知って。
これからは霧島くんとも共存して分かり合えるんじゃないかって、今はそう思う。
「俺たちも帰ろう」
聖が優しい顔で私の手を握る。
「うん!」
雲ひとつないコバルトブルーのような空。
私たちの未来への背中を押してくれてるような気がした。



