急になんで……。
どうしていいか分からずに、助けを求めるように霧島くんを見た。すると「はあ……」とため息をつきながら冷静な言葉が返ってくる。
「副作用だろ」
「ふ、副作用……?」
「血が暴走すると大量のアドレナリンが放出される。あそこまで我を忘れれば、そりゃ人間に戻った時にはなんらかの支障は出るだろ」
「そ、そんな……」
こんな山奥に病院なんてないし、そもそも人間の病院に連れて行っていいのかも分からない。
私が聖のことを抱えて山を抜けるのは不可能だし、スマホの電波は圏外だ。
「き、霧島くんっ。聖を助けて!お願い……」
さっきまで争っていた人に言うのはおかしいかもしれないけれど、ここは霧島くんにすがるしか方法がない。
「イヤだね。なんで俺がこいつを助けなくちゃいけないんだ」
「お願いっ!じゃないと聖が……」
「うう……っ」
「聖!」
唸るような声が境内に響く中でも、霧島くんは手を貸そうとはしてくれない。
私はただ聖の背中を擦ることしかできなくて、時間だけが過ぎていく。
すると再び、面倒くさそうなため息が聞こえてきた。
「〝それ〟は他人にはどうすることもできない。その副作用もまた自分で抑え込むしかないんだよ」
霧島くんが聖に向かって言う。
「自分の体を強くできるのは自分しかいない。それは精神力も含めてな。恐怖や迷いがあればその隙間からすぐに自制心は失われる」
「………」
「まだ迷っているのか?一条」
はじめて霧島くんが聖を名前で呼んだ。



