「……や……めて。……聖、もうやめて!!」
私は自力で縛られていた縄をほどいて、そのまま狼の聖に後ろから抱きついた。
感触や大きさは違うけれど、体温は聖のまま。
「殺しちゃダメ!そんなことしたら聖は二度と人間に戻れなくなっちゃう!」
聖は私を守るために狼になってくれた。
まだ不安定なのに、自信なんてないのに、それでも私のために戦うことを選んでくれた。
それなら今度は私が聖のことを守る。
聖に一線は越えさせない。
たとえ血が強くて濃くても、狼になったことを後悔させないように私が止める。
「聖、私はもう大丈夫だよ」
その顔を優しく撫でると、聖はゆっくりと噛む力を弱めていた。
「だから一緒に帰ろう。ね?」
完全に霧島くんから離れると、暴走していた瞳の色が落ち着いてきた。
狼の聖と見つめ合うと、耳が消え、牙がなくなり、銀色の毛並みから黒髪へ戻っていく。
次に私の瞳に映ったのは、いつもの優しい聖の顔だった。
その大きな手が包むように私の頬に触れる。それを確かめるようにして、私も手を重ねた。
「茉莉」
聖が私の名前を呼ぶ。
ニコリと同じ顔で笑って、私たちはそのまま抱き合った。
そんな嬉しさも束の間に、後ろでは倒れていた霧島くんが「ゲホッゲホッ」とむせていた。
「き、霧島くん、大丈夫?」
「……ハア……今度は俺の心配かよ」
憎たらしい言葉が返ってきて、ちょっとホッとしていた。



