「聖……っ」
また瞳から涙が流れてくる。
満月の光が、まるで聖だけを照らすように降り注いでいた。
キラキラとしてる光の中で、聖が目を瞑る。
次第に、彼の髪の毛が銀色へと変化していた。
暗闇に浮かぶ、バイオレットの瞳。ツンッと立っている獣耳と、毛並みが揃っている大きな尻尾。
だんだんと人間の姿が消えていく。
私の目に映る彼は、とても美しくて、とても凛とした銀色の狼だった。
一瞬で目を奪われてしまった。
こんなに綺麗なものを、私は見たことがない。
これが聖のもうひとつの姿。
「やっと狼になったな。でも理性が残っているか試してみるか?」
霧島くんはそう言って、指を鳴らした。
すると木に止まっていたカラスたちが目の色を変えて聖に襲いかかる。
すぐに聖は黒い渦に飲み込まれてしまったけれど、神社に響くのは聖の声ではなく、カラスたちの声だった。
一匹、また一匹と地面に落ちていく。その数が減るたびに、戦っている様子が見えるようになってきた。
「……聖!大丈夫……」
心配して声を出したけれど、思わず言い淀んだ。
聖はカラスたちの羽をむしり取るように爪で押さえつけていて、口に亡骸を咥えている。
まさにそれは野生の狼みたいだ。
口に血がついていても、全然気にしていない。



