「……ハア……ッ、茉莉」
「こ、聖っ……」
迷惑をかけていると分かっていても、聖の顔を見たら安心して涙があふれた。
どれだけ走ってきてくれたのだろう。その額には汗が滲んでいる。
「ここに来たということは決意が固まったのか?それともその姿のまま俺に勝てる戦略でも考えてきたのか?」
さっきまで私の首を締めていた霧島くんの関心が聖のほうに向いていた。
やっぱり興味があったのは、私じゃなかった。
聖が覚悟を決めたような瞳をしていた。
私とゆっくりと目が合う。
なぜかだか、胸騒ぎが止まらない。
イヤな予感がする。
「聖っ!ムリして狼になる必要なんてないよ!霧島くんは聖が暴走することを想定して煽ってるんだよ!」
匠さんが前に聖の力のことを風船に例えていた。10年間、狼になっていない聖はずっと無理やりに力を体の中に閉じ込めていた。
それを一気に解放したら、どうなってしまうのか。
今は頼りになる昴さんや晶くんもいない。
そんな私の不安を見透かしたように、聖が優しく問いかけてきた。
「ここに向かう間、ずっと考えてた。俺は自分の都合で狼になるものだと思ってた。今までがそうだった。誰かのためとか、そんなの一度だって思ったことはなかった」
「………」
「でも俺は、お前を守るために狼になる」
ドキッとするような眼差しで、聖が私のことをまっすぐに見ていた。



