リビングのあちらこちらに止まっているカラスたちが、私たちのことを取り囲むように見つめている。
そして、そのカラスたちの中心にいたのは、言うまでもなく霧島くんだった。
「佐崎茉莉、迎えにきたぞ」
王様みたいに偉そうにしながら、怪しげな笑みを浮かべている。
こんなヤツの言いなりになんて絶対にならない。そんな強い目をしているのは、聖も昴さんも同じだった。
「てめえ、なんでこいつにそんなに執着するんだよ」
聖が一歩前に出た。
「執着?それは違うな。俺は女が死ぬほど嫌いで人間も滅べばいいと思ってるんだ。だからこそ人間で、なおかつ女である佐崎茉莉を俺の傍に置いて、体質を変える道具として利用させてもらう」
「女なら他にもいるだろ」
「それならなんで佐崎茉莉はダメなんだ?お前たちにとってそんなに大事か?その女は」
「………」
なんでだろう。霧島くんの言葉にはいつも違和感がある。
私は勘が鋭いほうじゃないし予想も大体ハズレるけれど、霧島くんの目的は私でも体質を変えるためでもなく、べつのところにあるような気がする。
「そう。茉莉ちゃんは俺たちにとって大切な女の子だよ。だからリビングをめちゃくちゃにしたことは咎めないから、早く晶の術を解いて、さっさと帰ってくれないかな?」
昴さんが冷静な言葉を向けていた。すると霧島くんは表情を崩さず、静かに指を前に出す。
「だったら力ずくで俺たちを追い出してみろ。吸血鬼が俺のカラスに勝てれば、の話だけど」
クスッと笑みを溢したあと、瞬きする暇もないぐらいの速さでカラスたちが昴さんに突撃していった。