「知ってるって、なにが?」

またこの目。人のことを見下してバカにするように嘲笑う。


「お前、あいつが好きだろ」

「え?」

「一条聖だよ」

やっぱり〝あいつ〟とは聖のことだ。


知り合い……ではない気がする。三人はそんなこと言ってなかったし、そもそもこんな怪しげなヤツと仲良くするはずがない。


「……だったら、なに?」

苦手を通り越して、私はこの人のことが嫌いだ。だから嫌いな人に言葉を気をつける必要はない。


「恋愛感情なんて下らないな。この世で一番不必要なものだ」

「あなたが女嫌いだからって、そんな考えをみんなに押し付けないで」

校則で男女交際を厳しく取り締まったり、会話を制限するなんて、霧島くんの私情で縛られた生徒たちは窮屈でしかない。


「はっ。女嫌い?」

霧島くんは鼻で笑った。


気がつくと飛んでいったカラスたちが一羽、また一羽と電線に戻ってきていた。

偶然なのか、なんなのか、霧島くんの背後に列を作る。まるで従えてるような感じで気味が悪い。


「俺は女嫌いじゃない。人間が嫌いなんだ」

カラスたちの視線と霧島くんの視線が同時に私に向けられる。


金縛りみたいに体が動かない。

このままじゃ飲み込まれると思って自分の爪で思いきり腕をつねった。

それは血が滲むほどだったけど、縛られてる感覚からは解放された。


「へえ……」

霧島くんは感心したような声を出す。


「あ、あなたは何者!?」

人間が嫌いなんて、まるで自分が人間じゃないような言い方だ。

霧島くんはなにも言わずに再び私に近づいてきて、その横を通りすぎていく。


「余計な詮索はするなよ。あの三兄弟と少しでも一緒にいたいなら……俺に逆らわないほうがいい」

ゾクッとするような声だけを残されて、霧島くんは図書室から出ていった。