「いいから持っていきなさいな。こういう時のために残しておいたんだから」

 貴金属は取り上げられたけれど、結婚指輪だけは免れた。愛されなかった結婚生活でも、レオンティーナが皇妃となった証しはこの指輪だった。
 死んだあと、知らない相手に奪われるくらいならソニアに持って行ってもらった方がいい。
 白く飾り気のない簡素なワンピースに身を包んだレオンティーナは、ソニアに手を引かれて牢の外に出た。
 そのとたん、こちらに突き刺さる人々の視線。
 一瞬、足がすくみそうになるものの、つんと顎をそびやかし、彼らなど怖くないのだと見せつける。
 見上げれば、処刑の日にはふさわしくないほどに晴れ渡った青空が目に飛び込んでくる。太陽の光に目を細めながらレオンティーナは心の中でつぶやいた。

(アンドレアスと天国で再会するのかしら……)

 夫のアンドレアスは、一昨日処刑されたと聞いている。
 一度も心が通じあったことなどなかったけれど、あの世で顔を合わせることはあるのだろうか。