ドキドキしているレオンティーナをよそに、母はにっこりと微笑んだ。

「素敵。あなたの勘はあたったわね。お父様が準備してくださったのだけど、この部屋はどうかしら」
「とても素敵よ、お母様。お父様にもお礼を言わなくちゃ」

 母にぎゅっと抱き着く。驚いたように、母はぱっと両手を上げた。
 前世でも、今の生でも、レオンティーナがこんな風に母に抱き着いたことはない。

「どうかしたの……?」
「いいえ、ただ」

 そこでレオンティーナは言葉を切ってしまった。

(言えないわ。お父様とお母様が生きていて嬉しい、なんて)

 前世では父は愛人を作り、母は父を呪いながら死んでいった。
 この屋敷でひとり、過ごしたのだ――皇宮に嫁ぐまで。
 その皇宮も、レオンティーナにとって心安らぐ場とはならなかった。夫に顧みられることないまま、ただ、皇妃という地位だけを与えられた。

(……そうよ、今回は同じ失敗は繰り返さない)

 レオンティーナの望みは、至高の座につくことだ。そのために、家は快適な場所でないと困る。

「とても、幸せだと思ったのよ――お母様。だって、一緒にロアに来られたんだもの」