母の手を取り、そこに口づける。それからレオンティーナに向き直り、改めて額に口づけた。

「約束は忘れないでくださいね、お父様」
「……わかった」

 本当に情けない父親だが、今はこのあたりで許してやろう。
 母とふたり、父の馬車がロアに向かって出発するのを見送る。

(……手紙が来なかったら、私がロアまで乗り込んでやるわ!)

 どうやってロアまで赴くのか、その方法はさっぱり思い浮かばないけれど。
 

 レオンティーナの懸念をよそに、父は二日に一度――どころか毎日領地に向かって手紙を出してきた。
 父の領地から、ロアまでは馬車で一週間かかる。途中で使者宿泊させることを考えたら、かなり無駄な出費が増えたことになる。

(いえ、無駄な出費ではないのだけれど……!)

 手紙が来る度に、母も嬉しそうにしているから、まんざらでもないのだろう、たぶん。
 だが、父の待つロアに行こうという気にはならないようだ。

(これって、私がもう一肌脱がないとだめなんじゃないかしら)

 本当に世話の焼ける両親である。
 さて、どのような理由をつけてロアに赴けばいいだろう。