悪役令嬢は二度目の人生で返り咲く~破滅エンドを回避して、恋も帝位もいただきます~

 父が母の名を呼ぶ声が、最後に響く。

(……これで、うまくいくはずもないけれど)

 なにせ、結婚してから十年こじれっぱなしだった両親だ。今、父が追いかけたところで、母の気持ちをほぐすところまではいかないだろう。
 ――それでも。
 まずは一歩、一歩踏み出さなければふたりの関係が変わるはずもない。

「このローストビーフ、とてもおいしく焼けているわ。お代わりをもらえるかしら?」

 父が焦って出て行ったあとも、レオンティーナは悠々と食事を満喫した。
 なにせ、牢の中ではマレイモのスープと固いパンくらいしか与えてもらえなかったので。
 デザートのレモンシャーベットとチョコレートケーキを食べ終わっても、父は戻ってこなかった。
 レオンティーナは自分の部屋に戻る前にこっそり母の部屋の様子を探ることにした。
 扉は閉まっていた。左右を見回し、誰も見ていないのを確認してからそろりとその扉の方に近寄ってみる。
 行儀悪いのはわかっていて、扉に耳をつけてみた。中から聞こえるのは男性と女性、ふたり分の話し声。
 何を話しているのかまではわからなかったけれど、父は無事に中に入れてもらえたようだ。