社交上の付き合いにふたりそろって顔を見せることも増え、ヴァスロア一のおしどり夫婦などと言われることもあるらしい。母が身ごもったというのは、めでたいことである。

(でも、お母様けっこうなお年だから心配よね……)

 面と向かっては言えないが、母はもう四十代だ。この年齢になって出産するという女性は、この国では珍しい。
 けれど、その点もまたぬかりなく手配されていた。

「お医者様と一緒に戻ってくるのですって。出産まではこちらで過ごすそうよ」

 ロアにいると、どうしても社交上の付き合いというものが出てくる。
 身重の母にはそれは厳しかろうという理由から、出産まで領地でのんびりと過ごすことになったそうだ。
 もうつわりも終わり、体調も安定しているというが、念のために国内でも指折りの名医を連れ、出産まで屋敷に滞在してもらうのだそうだ。
 皇帝の命令で、皇妃がアンドレアスを出産した時の侍医を紹介してくれたらしい。

「お医者様のお部屋を用意して、お父様とお母様のお部屋を掃除しなくてはね! 新しいご本も持ってきてくださるそうよ」
「素敵ですね。お医者様のお部屋はどちらにしましょう?」