日頃父は皇都であるロアで生活し、大公家の一員として、皇帝のお側に仕えている。
 母は、ロアには同行せず、ここバルダート大公領で暮らし、皇宮で行われる行事に参加しなければならない時だけ、皇都ロアに赴く。
 レオンティーナは、母と一緒にバルダート大公領で暮らしていて、父と顔を合わせるのは久しぶりだった。

(……これも、記憶にあるとおりね)

 茶の髪に茶の瞳の父は、瞳の色と髪の色こそ違うものの、皇帝とよく似た面差しの持ち主だ。
 両親は向かい合って座っているが、視線を合わせようとはしない。レオンティーナは、のろのろと母の隣に座った。

「食欲がないの?」
「ごめんなさい、お母様」

 食欲がないというか、現実に頭がついてこないという方が正解だ。
 母は、レオンティーナとよく似た容姿の持ち主だった。いや、レオンティーナの方が母親似ではあるのだが。
 硬質な美貌の持ち主であり、娘がいるとは思えないほど若々しい。だが、表情には生気というものが感じられず、心の中では何を考えているのかよくわからない人でもあった。
 パンをちぎりながら、父が口を開く。