「な、なんで泣くのよ! 私が悪いみたいだからやめて!」

 ソニアの選んだ帽子に決めたとたん、ソニアがぼろぼろと泣き出してしまう。いじめたつもりはなかったので、レオンティーナは動揺した。

「お父様! お母様! ソニアが!」

 慌てて両親を呼ぶ。
 まるで、これではレオンティーナが悪いみたいではないか。

「――ソニア。どうしたのかな?」
「旦那様……私、幸せです……!」

 幸せだと、涙が出るものなのか。知らなかった。

「遊園地に連れて行っていただいて、アイスクリームをご馳走していただいて――今、お嬢様が私の選んだ帽子にすると言ってくださったんです――!」

 そんなのたいしたことではないのに。
 レオンティーナがうろたえていると、母がべしょべしょ泣いているソニアの前に膝をついた。
 そっと差し出したハンカチで、ソニアの涙を押さえる様子を、レオンティーナは茫然と見ていた。
 前世の記憶からして、母が使用人にこんなに優しくするのは見たことがなかったから。