「……失礼しまーす」

緊張と不安を抱えたまま控えめにドアを開ければ、

清潔感のある洗面所と脱衣所が見えた。

うちの洗面所より大きな鏡。

綺麗にされてるな……。

って、何度も言うけど、私、本当に夏目くんの家のお風呂借りちゃうの?

だんだんと実感が湧いてとたんに恥ずかしくなる。

お風呂に入るということは、あの夏目くんの家で、自ら服を脱ぐということで。

べつに夏目くんに何されるってわけじゃないけど。

少なくとも彼のテリトリーでそういうことをするのに抵抗がないわけがなくて。

「郁田さん」

「っ、はいっ」

後ろから突然名前を呼ばれて、肩をビクつかせながら振り返る。

目の前には服を着替えた夏目くんがタオルで髪を拭いていた。

片手には、上下セットのグレーのスウェット。

「フッ、どうしたの?すごく挙動不審」

「いや、別に」

そう言ってすぐに目をそらす。

今さら、やっぱり恥ずかしいとか、言えるわけない。

夏目くんのことを意識してるみたいだし。

いや、してると言われればしてるけど、決していい意味ではない。

「着替え……悪いけど俺ので我慢して。乾くまで」

「はい……」

夏目くんの、スウェット……。

夏目くんは洗面所横の棚に着替えを置いてから、

『タオルはこっちの使って』

と同じ棚の上の段を指さした。