「お母さん、なんでお兄ちゃん帰ってこないの?」

終業式の夜、みどりに成績表を差し出す悠翔が聞く。
 
「喧嘩したの。お母さんが怒ったから。お兄ちゃん、反抗しているのよ。」

何も知らない悠翔に誤魔化すみどり。
 
「珍しいね。お兄ちゃん、いつもお母さんを困らせるなって俺に言っていたのに。」

悠翔の言葉に、みどりはハッとして顔を上げる。
 

「そうなの?」驚いて聞き返すみどり。
 

「うん。お兄ちゃんと俺で、お母さんを守るって。お父さんと約束したからって。ずっと言っているよ。」

みどりは初めて聞いた。

大翔は小さい頃から我儘を言わなかった。

色々なことを我慢してくれた。

それは全部、みどりを守る為だったのか。
 

「そうだったの。お母さん、知らなくてお兄ちゃんを怒り過ぎたわ。あとで謝っておくね。」

みどりは胸が熱くなって悠翔の前から立ち上がる。
 
大翔の思いやりに気付かず大翔を傷付けてしまった。

大翔の心にはずっと孝明がいる。

孝明が大翔を導いていた。

それなのに茂樹に救われようと思ったみどり。

自分の浅はかさに涙が溢れる。