「話してくれよ。大翔は誰の子なんだ。みどりが言わないと、俺の気持ちが整理できないよ。」

孝明は責めるよりも懇願する口調で言う。

みどりはもう一度、小さく
 
「ごめんなさい。」と言う。
 
「大翔の父親は誰なんだ?」

孝明は同じ言葉を繰り返す。

みどりは心を決めて
 
「孝ちゃんと会う前に付き合っていた人。」

俯いたまま、絞り出すように言う。
 
「みどり、ずっと彼氏いなかったって言っていただろう。」

孝明は不審気に聞く。
 
「彼じゃないの。奥さんのいる人だったから。」

みどりは涙を流しながら答える。
 
「俺と二股かけていたの?」

孝明は顔を上げてみどりを見る。

みどりは首を振って
 
「違う。孝ちゃんと付き合い始めた時、別れたの。でも偶然会って。」と言う。

後の言葉に詰まるみどりに、
 
「そのまま寝たわけだ。」

と吐き捨てるように孝明は続けた。

みどりはただ首を振り続ける。

孝明の言葉を否定できないまま。
 

「明日、埼玉まで送るよ。もうこのままは暮らせないから。」

長い沈黙の後、孝明はそう言って立ち上がる。
 
「どこへ行くの?」

玄関へ向かう孝明にみどりが聞くと
 
「車で寝る。一人で考えたいから。」

と孝明は言った。

孝明が玄関に鍵をかける音がみどりの心に響く。

こんな時でも孝明は、戸締りをして安全を気付かってくれる。

そう思った時、みどりは涙に顔を覆った。