お前が好きだなんて俺はバカだな

元いた路地裏に駆けつけると、さっきえりなちゃんたちを囲んでいた男たちは、倒れていた。

これ、全部先輩ひとりで...?

でも。

「へえ、君強いね。
もしかして、遠谷くん?」

イルマと呼ばれていた男が楽しむようにそう言った。

まだ余裕があるって、感じで...。

「ねえ、黒潮。
遠谷くんだよ。
やっと会えた。」

黒潮と呼ばれた男は、何も言わず、先輩を威嚇するように睨んでいる。

「巳鎖中の正義のヒーロー、遠谷美礼くん、
だね?会えて嬉しいよ。」

先輩は無表情のまま何も言わない。

「こいつは黒潮勲。
ほら、挨拶して。」

黒潮はさっきのまま変わらず睨むだけだ。

「失礼。この子は警戒心が強いんだ。
許してやってね。」

先輩は逆に特に警戒しているわけでは無さそうだけど...。

もしかして、そんなに強くないと思ってるのかも。

でも、えりなちゃんの言うことだと...。

「それで、僕が東條イルマだよ。
仲良くしようね、遠谷くん。」

「...。」

「今日は会えただけで十分なんだ。
もちろん、そこに隠れてる彼女にも手は出さないよ。」



気付かれてた...?

それでも先輩の横顔は表情を変えることがない。

でも、そのかわりに、

「もし、手出したら怪我じゃ済まなくしてやりますよ。」

と、冗談のように言った。

「大丈夫さ。
君が呼べば潔く出てきてくれる優しい人だって分かってるからね。
それに、これは僕と君だけの問題だから。」

どういうこと...?

「さっきのことはごめんね。
あれは妹だよ。
僕も汚いことはあんまりしたくなかったんだけど、そういうアプローチの仕方もオツでしょ?

ま、たしかに彼女がいるって事前に分かっとけば、会うのも楽だったかもね。」

「随分と人をからかうのがお上手なんですね。」

「タメ口でもいいよ、同い年なんだし。」

「遠慮しておきます。」

「まあ、君がいいならそれでもいいよ。

それで、次に会うのいつにしようか?」

「できればもう会いたくありません。」

「そういわずにさぁ。
あ、再来週あたりに夏祭りがあったよね。
そこで会うのはどう?」

「...。」

「まあ、嫌っていうほど君もせっかちな人じゃないよね。

じゃ、決まり。
いたら見つけ次第こちらから声をかけるよ。
バイバイ。」

一方的に話をつけて、暗がりの奥へと去っていく2人...。

「先輩...あの人たちは...?
イルマとかいう人は結構親しげ(?)でしたけど...。」

「...そうだな。
中学では同クラだった気がする。よく覚えてないけど。」

「え...。
さっきよく知ってる風に言ってませんでした?」

「名前忘れてたんだよな。
親切に名乗ってくれたからなんとか思い出したけど。」

「そうなんですか...。
この倒れてる人たちは大丈夫ですかね?」

「そのうち起きるだろ。
手加減したし。」

「先輩...。」

先輩は、何事もありませんでしたというように、服ついた砂埃を払って、現場に背を向けた。

こうしてみると、大丈夫そうに見えるけど、やっぱりあの子が言ってた言葉が気になる。

「先輩...本当に夏祭り、行きますか...?」

「ああ。」

「あの、先生とか、会長にも報告しましょうか?」

「しなくていい。
東條もまわりの介入は嫌いような口ぶりだったし。」

「でも...えりなちゃん...いえ、妹さんが、勝てるわけないって...。」

「まあ、最近まともにやりあってないからな。ていうかやりあいたくもないし。
でも、負けることはないだろ。」

そんな、楽観的な感じでいいのだろうか...。

「でも、お前が狙われないとも限らないからな。注意しろよ。」

「はい...。」