私たちは店を出た。

何も買いはしなかったけど、面白かった。

でも。

「あれ?
先輩どうしましたか?」

「...なにも。」

明らかに不機嫌そうな顔をしている。

「すみません、先輩...音楽、嫌いでした?」

「いいや。」

「じゃあ...なんで??」

「...別に。」

そんな某女優みたいな言い方...。

「先輩...そんなに怒らないでくださいよ...。」

目、合わせてくれない...。

「先輩...?」

「...たのしそうだったな。」

「え?」

それってさっきのこと?

楽しんだらまずかったの...?

どうしてそんなこと。

「今日はずっと楽しかったですよ?
先輩とここまで来て本当によかったなって思ってます。」

「ああそう。」

ああそうって...。

「先輩はそうでもなかったんですか。」

「...。」

「何怒ってるんですか?
ちゃんと言ってくれないと分かんないです!」

ちょっと大きな声を出してしまった。

だって...。

せっかくこんなに仲良くなれたのに...。

「...大人気ないのは分かってるけど。」

先輩...。

「でも...。
やっぱり腹立つ!」

ふえぇ...先輩怖い...。

「さっきの顔、腹立つ。特に俺に向けられてないところとか。」

「え、先輩...?」

「お前の、あの楽しそうな顔...。
あれは、だって...。」

「それは、先輩にわがままきいてもらって、先輩と一緒にここまで来れたから楽しかったんです。ひとりでまずここまで来ないですし。」

「...でも。」

「でも??」

「...。」

先輩の考えてることはよく分からないけど。

私のことはちゃんと想ってくれていたみたいだ。

意外と感情的なんだな...。

最初は本当に落ち着いた人だと思ってたし、意地悪な性格が本性だと思ってた時期もあったけど、それもほんとうは...。

「くそ、
なーにが、
ラプソディー・イン・ブルーだよっ!」

「...へ?」

「俺だって...練習すればそれぐらい弾けるし。第一...なんなんだあいつ。誰だよ。」

「あ...はい...(^_^*)」

なんか...。

かわいい。


ぽんっ。

私は例のぬいぐるみを先輩に投げた。

「先輩、とりあえずエセラビちゃんでも見て落ち着いてください。」

「...は?」

「先輩がとってくれたんですよ。
こんなにおっきなぬいぐるみ、2回で取れるなんて凄いですっ!」

「...俺はお前にこんなキモいぬいぐるみをとってやることしかできないのか...。」

「せんぱい...。」

その顔...
やめてww

「そんなことないですよ。私の好きなブランドのネックレスとイヤリングも買ってくれたし、ランチだって奢ってくれたじゃないですか。」

「...。」

先輩は、膨れっ面のまま、エセラビちゃんを抱えながら、その耳や足をいじいじしている。

今日いちの萌えポイントっ!!

思わず、ちょっとニヤけてしまった...。

「...なんだよ。」

そのままこっち向かれたら...。

「先輩...やっぱりかわいいですっ...!!」

「...!」

先輩はムッとして、エセラビちゃんを地面に叩きつける動作だけしてみせた。

気に入らないってことを言いたいんだろうけど、本気じゃないことは誰が見ても分かる。

「先輩...ありがとうございます。」

「...うん。」

「...先輩、エセラビちゃん気に入ってます??」

「なわけないだろ、こんなの...。」

エセラビちゃんの耳をしばらく動かして、
先輩は、すっとこちらに差し出した。

「...返す。」

「もういいんですか?」

「あんまり見てると夢に出てきそうだから。」

「えー...ww」

「それにこれはお前のだろ。
どこがいいのか知らないけど、お前が欲しかったものだから。」

私はエセラビちゃんを受け取った。

それで、先輩に向かって、

「みれいせんぱい、ありがとう、らびっ!」

と、ちょっと高い声でしゃべってみせた。

「...。」

ぶぎゅっ!

先輩の軽い拳がエセラビちゃんを直撃!!

「いたいっ!
せんぱい、やめるらびっ!!」

「うるさい、きもちわるい...
...www」

先輩は腹を抱えて笑いはじめた。

そ、そんなにこの子、変かなぁ...。

でも、よかった...。

またまたエセラビちゃんに助けられちゃった。