「美礼先輩、
何怒ってるんですか?」

「は?
元からこういう顔だけど??」

「そうかなぁ...。
先輩いつもと様子違うと思います。」

「気のせいだろ。」

「そうですかね。
じゃあ、あまり詮索しませんけど。」

「...。
別に、怒ってるってわけじゃないけど...。」

「やっぱり何かあるんですね?」

数日前に、告白された問題の生徒会室で、今度は先輩、何を思っているんだろう。

「どうしたらいいか、分からなくて。」

「何がですか?」

「どうやって付き合えばいいのか。」

「それはどういう意味なんですか?」

「...お前はひとつ後輩なんだから、クラスが一緒ってわけじゃないし。」

「はあ...。」

「面と向かって会えるのは、この放課後と、あとは昼休みぐらいか。」

「まあ、そうですね。」

「その間に、俺がもし、
お前が他の男と仲良さそうに話してるのを見たとしよう。」

「...はい。」

「俺はどんな気持ちだと思う?」

「...。
先輩、やっぱり怒ってます??」

「別に。」

「あの、確かに、私が他の人と話すことはままあることですけど。」

「なぜ?」

「一応、学校生活を送るうえで最小限のコミュニケーションは必要でしょう?」

「お前にとっての最小限のコミュニケーションがあれなのか。」

「先輩、私を束縛するおつもりですか?」

「束縛なんかしてないだろ。
あの男が誰なのかきいてんだよ。」

...。

先輩、意外と性格が独特なんだよな。

でも、先輩のその真剣な顔...,

もっと見ていたい。

だから私もちょっとだけ仕返しを...。

「田中さんは小学生の頃からの顔見知りです。友達というわけでもないです。
今朝は、向こうの方から移動教室の場所と日時をきかれたので、挨拶交じりにお応えしただけですよ?」

「それはお前の基準だろ。」

「別に私の基準でいいじゃないですか。」

「もしかしたら、顔見知りが友達より上の基準になってる奴がいるかもしれないだろ。」

「それ、どういう意味ですか...。」

まあ、とりあえず、嫉妬してくれてるんだろう。

「いいじゃないですか。
先輩は一応私と恋人なんでしょ?」

「その考えが俺は疑問なんだよ。」

「だからどういう意味なんですか...。」

「その
恋人だから
比較的上の関係性だから
私たちは大丈夫
みたいなやつ。」

なるほど、
わからない。

「俺は、お前と顔見知りでもありたいし、友達でもありたいし、恋人でもありたいと思ってる。」

「え...。」

「人と人との関係っていうのはそういう謎のエスカレーター式じゃないだろ。
いろんな視点からなるべく全部を認めあえるのが理想だと思うんだよ。」

...この人、
純粋なんだか、へそ曲がりなんだか...。

器用なんだか、不器用なんだか...。

「とりあえず、結果私にどうしてほしいんですか。」

「...。」

先輩は、真っ直ぐな瞳で私を見つめてくる。

水晶みたい...。

ちょっと仕返しがすぎたかな...?

って、

か、顔が...。

だんだん近く...。

「やっ...、せんぱ...。」


だめっ...。

...。


コツン。


「...へっ?」

少し目を開けると、先輩とおでこをごっつんこしていた。

「先輩...なんですか、これ。」

「今日腹立ったから、仕返しに頭突き。

...いたいだろ?」

っ...、
だめっ、

こんな近くでキラキラスマイルは眩しすぎる!

「バカなこと言ってないで、ちゃんと資料まとめてくださいっ!!」

「はーい。」

先輩は機嫌が良さそうに、私から離れ、
資料まとめの定位置についた。

でも、

顔見知りでもあって友達でもあって恋人でもありたいって...。

なんか今じわじわ...、

く、る...?

「どうした?
なんか顔赤いけど。」

「っ!!
なんでもありませんっ!!」