「先輩っ!」

「なんだよ。」

「あの、ごめんなさい...。」

「また謝罪かよ。」

「だって...、私...。」

「もういいって言ってるだろ。」

「でも...。」

「いい加減しつこいぞ。」

「先輩、本当はお外行きたくなかったんですよね...?」

「は?
なんでそんな話になるんだよ。」

「冷蔵庫に...ケーキ...。」

「...。」

先輩は言葉を無くしてしまったようだった。

私のせいだ...。

「わがまま言って本当にごめんなさい...。」

「違う。これは前から余ってたやつだから。」

「私のせいです...。ごめんなさい、先輩。」

「違う。お前のせいじゃない。」

「私が無理矢理連れ出しちゃったから...。」

「違うって言ってるだろ。関係ないことだって何度言ったら...。」

「ごめんなさい。いつも空回りで、本当にごめんなさい...。」

「泣くなよ、おい...。」

「先輩...。」

「...。」

先輩の顔が霞んでよく見えないけど、
きっと私に失望してる...。

「最低だ、俺...。」

「え...?」

先輩が何か呟いたけど、ちゃんときこえなかった。

いや、正確にはそんなことどうして言うのか理解できなかった...。

「謝らなきゃいけないのは俺のほうだ。」

「なんで...?どうして先輩が...?」

「お前を、見限ろうとしたから。」

どういうこと...?

「俺といるとこうやって傷つけてばっかりだから、少しずつ突き放して離れていくならそれでもいいって思ってた。」

「そんな、私は傷ついてなんか...。」

「俺と一緒にいると、家族のことも、友達のことも、学校のことも、みんな気にしなきゃいけなくなる。それって、傷ついていくってことなんじゃないのか。」

「違います!好きな人の周りのことを気にするなんてこと、ごく当たり前のことじゃないですか!」

「...。」

「先輩は間違ってます。私が傷ついてるって勝手に思ってるだけです。」

「そうかもしれない。
俺は間違ってる。」

「そうやって、開き直って欲しいんじゃないんです。」

「...。」

「先輩...。」

「...分かった。もう、...もう、こういうことは止める...。
だから、さっきまでのことは...ゆるして。」

私と先輩は、根底から食い違ってた...。

先輩がこうして私を抱きしめるときも、ずっと心の奥底では、後悔してる。

「捨てておけばよかった。」

なんて、まだ呟いてるから。

「なんでですか、せっかく用意してくれたんですから食べましょうよ。」

「元からあれを用意するつもりなんてなかったんだ。相手と距離を離すなら贈りものなんて必要ないから。」

「なら、どうして冷蔵庫に美味しそうなケーキがあるんです?」

「それは、俺にも...分からない。」

「分からないんですか...?」

「そう。何にも分からない。
ケーキを作ったのも、デートに付いていって行きつけの店に連れてったのも、家に連れて帰ってきたのも、プレゼント用意したのも...ぜんぶ。」

「プレゼント...?」

彼は一旦腕を解くと、どこからともなく赤いリボンの付いた箱を取り出してきた。

「お前にとっていいものかどうか分からないけど。」

「もらっていいんですか...?」

「やっぱり、渡すこともなく捨てるのは勿体ないから。」

「...先輩、つらかったでしょう?」

「...ああ、やばかった。」

「もう、何よりも自分を傷付けるのはやめましょうね。」

「もう懲りたよ。
結野、ごめんなさい。」

「...許します。もうしないでくださいね。」

顔をあげると、先輩がやっと笑ってくれた。

...仕切り直し、かな。