ごめん。

彼が彼女の部屋でそう言ってないていたのを、たったひとり、見ていた人物がいた。

昔から、

...勘は鋭いほうだと思う。

姉にはまだ敵わないけど、この家の長男としては、相応の責任があると思っているから。

だから彼のことも知っている。

彼は、姉とは違うことを。

誰かに愛してもらった経験などない。

彼は家や仕事を守るための道具として、父親から厳しい教育を受けてきた。

妻となる者もいつもそうで、耐えられずに家を出ていく。

彼女たちの唯一の癒しが、いつも彼であり、同時に憎しみの対象にもなった。

彼の一人暮らしの理由はそこだろう。

そして厳しい父親も、最近、帰らぬ人となったそうだ。

その事実自体は姉はどこかで聞いたようだが。

実際...彼の境遇を考えると...。

今までひとの目を気にして自分を偽ってきた彼にとって姉の存在は...。

ただ、過去のトラウマを増強させるだけだ。

...本当は、あの2人が一緒にいることは、あまりいいことじゃないんだ。

最初から、2人は結ばれるべきじゃなかった。

いつかは、面と向かってそう伝えようと思っていたけど、彼自身がそう分かってしまっているなら、

余計に悲しいことだ。

彼の胸の内は後悔しかないのだろうな。

...。

姉さんをこれ以上傷つけたくないのならば。

彼がとる選択肢は。

やはりひとつしかないだろう。

「いい夢を、ね...。」

そっと扉を閉めた。