「...何してんの?
そんなとこで。」

「先輩を待ってただけですよ。」

「こんなすみっこで...?」

「はい。私もすみっこ好きなんですよ。」

「へぇ...。」

「帰りましょう、先輩。」

「ん...。」

先輩は無表情で私の手を握ってきた。

...うれしいな。

「...今日のお前は、単純思考だな。」

「子どもっぽくてかわいいでしょ?」

「子どもというよりいたずらっこだな。」

「えー。
なんにもしてないのにー。」

「今日の弁当の唐揚げにハバネロソース入れただろ。」

「気づいてたんですか。何も言わずに食べてたからてっきり辛いの平気なのかと思ってました。」

「俺はそんなに鈍感じゃないぞ。」

「辛かったですか?」

「...今のお前の顔、イルマそのものだぞ。」

「嫌ですねぇ。あの脳筋ファイターくんと
一緒にしないでくださいよ。」

「...言い方。」

「最近、先輩元気がないですから。力つけてもらおうと思って。」

「別に、元気ないわけじゃなくて最近は省エネモードなんだよ。」

「なんでですか?」

「意味はないけど。ずっと全力だと流石に疲れるだろ。」

「そうですけど、先輩が省エネになる基準がよく分からないんですよね。」

「寒いのは苦手だ。」

「なるほど。だから手を繋いでるんですね。」

「お前の手はあったかいな。」

「先輩のスマイルもあったかいですねぇ。」

「...ばーか。」

「先輩のばーかには愛がありますね。」

「お前には実力行使できないからな。」

「ああ...先輩のパンチですか。
でも、東條さんにもばかって言ってるんじゃないですか?」

「あいつはばかじゃなくてあほなだけだ。」

「ですね。」

「お前は寒くないのか。」

「いえ。まだ大丈夫です。
私冷え症の経験ゼロなんですよ。凄いでしょ?」

「ばかは風邪ひかないっていうもんな。」

「どうせ私はばーかですよー。」

「でも、その軽装備は納得できない。
これを着なさい。」

「ひゃー...。先輩あったかいです(*´꒳`*)」

ぶかぶかであったかいけど...先輩のコートだから先輩が軽装備になる。

「先輩寒いでしょ?返しますよ。」

「だめ。」

「先輩が風邪ひいちゃいます。」

「そんなに俺の風邪を危惧するぐらいなら、明日からちゃんと防寒着を持ってきなさい。」

「むぅ...。先輩のばか、親切、イケメン!」

「なんだその中途半端な褒め方は。
俺に全身全霊、感謝しろよ。」

「ありがとうございます!
でも...本当に大丈夫ですか?」

「大丈夫だ。お前は防寒にも使えるから。」

「え?それってどういう...。」

ぎゅー...。

...。

先輩...やっぱり絶対寒いですよね...?

「先輩、ごめんなさい。
明日はちゃんと重装備で来ますから。」

そう言って顔をあげると、先輩は優しく微笑んで、おでこに軽くキスをした。

「...やだ、今日の先輩可愛いです...。」

「いつも可愛い可愛い言ってんじゃねえか。」

「だっていつも可愛いんですもん...。」

「...ばか。」

先輩は膨れっ面で、私のほっぺたをつんつんしている。

...?

その顔がだんだん、色づいてきて、その瞳が切なそうに揺れた。

「先輩...?」

「...。」

「先輩、どうしちゃったんですか...?」

「...寒いからはやく、帰ろう。」

「...はい。」

噛み締めるように言った先輩の言葉。

時々、そうなる。

いつもなんてことない難しい話を頭がいい先輩ははきはきと返すことができるのに、

時折こういう風に言葉が出なくなって、

独り言のようになってしまう。

自分に言い聞かせてるみたいに。

後悔してるみたいに。

彼女を抱きしめることなんて絶対悪いことじゃないのに。

キスするときだってそう...。

やっぱりどこか私のことを気にして、タイミングを見計らっている。

さっきも、私の目をみて、なにかを探ってたんだ...。

小さいときからそうやって気にしちゃうんだ。

友達も、先生も、親御さんにも...。

先輩は...私よりずっとつらい思いをしてきてる。

「先輩、今日は私の家にお泊まりしませんか?」

「...いや、お前の家って...。」

「イツキもヒガシも大歓迎ですよ。
いきましょう!」

「え...おい、
...。」

私は先輩の手を引っ張って通りをぐるっと曲がった。

それは、先輩が私と初めて会ってから気にしていた、

家までの近道...。