ずっと使っていてボロくなった筆箱。

お母さんにもらってずっと大切に持っていた色褪せたキーホルダー。

毎日のように抱いている、薄汚れたぬいぐるみ。

制服、教科書、鉛筆、消しゴム、ノート、鞄...。

いつのまにか、私の元にあって、いつのまにか、古くなって、壊れてしまう。

私は、先輩にとって、いつか古くて汚くなった存在になってしまうのだろうか。

私のことを、いつまでも大事にしてくれるかな。

携帯...。

電話が鳴っている。

「もしもし、先輩?」

「今何してる?」

「部屋にいます。もうそろそろ寝ようかなって。」

「そうか。
俺も寝ようと思うけど、その前に今日もお前の声がききたい。」

「またですか。
いいですけど。」

ここのところ、毎日こんな調子だな。

「先輩また寂しくなっちゃいました?」

「ん...そんな大袈裟なものじゃないけど。」

「先輩は寂しがりやさんですね。」

「別に。」

「それとも、私を想って電話してくれたんですか?」

「両方。」

「そうだったんですね。ありがとうございます。」

「こちらこそ。」

「先輩可愛いです。」

「またでた、そのことば。」

「だって可愛いですもん。
わざわざ毎日電話をかけてくれるんですよ。」

「普通だろ。」

「よしよし。先輩いい子ですね。」

「...ばーか。」

「嬉しそうじゃないですか。」

「まあな。」

「他にもっと話しておきたいことあります?」

「ないけど、もう少し話したい。」

「えー。
じゃあ、絵本でも読んであげましょうか。」

「先輩をからかうもんじゃないぞ。」

「先輩がお話ししたいって言ったからですよ。」

「確かにそうだけど。」

「もぅ...。
ちょっとは先輩から話してくださいよ。」

「俺?」

「そうです。先輩の話。」

「...俺から話せるようなことは何もないな。」

「なんでもいいですよ。今日の授業とか、ご飯とか、東條さんたちと話したこととか。」

「んー...。いつも通り。特に変わったことは何もなかった。」

「本当ですか?
じゃあ、先輩は小さい頃どんな子でした?」

「どんなって言われても、特には...。」

「大人しかったとか、元気だったとか...。」

「どちらかといえば、大人しくて人見知りだけど...。」

「私も人見知りでしたよ。今もそうですけどね。」

「そうか。」

「先輩が人見知りだなんて意外ですね。
なんか普段は誰にも臆せずって感じですけど。」

「そりゃあ...別に怖いものなんて何も...。」

「喧嘩強いですもんね、先輩。」

「別に強くねえよ。」

「強いですよ。東條さんだってそう言ってましたし。」

「んー...。」

眠いのかな...。

「もうそろそろ寝ましょうか。」

「...。」

「...先輩?」

「...ああ、ごめん。なに?」

「先輩眠いですか?」

「いや、眠くない。」

「じゃあもっと話します?」

「...。」

先輩どうしたんだろう...?

「ごめん、今言うこと少し考えてて...。」

「あ、はい、大丈夫ですよ...?」

「言いにくいけど、結野は、俺が...、俺のこと知ってるんだっけ...。」

「先輩のこと...?
あ...。」

「そっか、ありがと。」

「...ごめんなさい、わたし...。」

「気にすんな。俺は大丈夫。」

「私のこと、やっぱり気にしてくれてたんですよね。」

「...余計なことだったよな。
余計傷つけてごめん。」

「い、いいんです!
気にしないでください!
先輩...ほんとに優しくて...私...。」

「...。」

「...先輩、好きです。」

「...俺も。」

「愛してます。」

先輩が笑う声が聞こえる。

「なんで笑うんですかー。」

「ごめん、ごめん...。」

「先輩...。」

「...ごめんね。」

心地よく涙が溢れた。

先輩も、ないてはいないだろうか。

分からないよなぁ...。

「俺も。
おれも大好きだよ。」

やだなぁ、先輩って

いじわるだ...。

先輩は、そうやって、私に愛のおとずれを予感させた。