「先輩。遅かったですね。
それで、今日のご飯は?」

「時間がなくて、パンも弁当も売り切れてた。」

「...じゃあ、先輩今日お昼無しじゃないですか!」

「全く、人の頼みは素直にきくもんじゃないよな。」

「先生に呼び出されてたんでしたっけ。」

「うん。」

先生も先輩使いが荒いよなぁ...。

「先輩...あの。」

「ん?」

「ご飯、食べたくありません?」

「そうだな。正直に腹減った。」

「じゃあ、あの...。」

私は、もうひとつ隠し持っていたお弁当箱を差し出した。

「最近、先輩栄養不足なんで、これ、作ってきました。」

「...。」

「残りものですけど、余っても困るのでどうぞ。」

「...お前、なんて気が利くやつなんだ。」

「そうですか...?」

「うん、ありがとう。」

先輩...。

「最近先輩は意地悪じゃなくなりましたね。」

「ん...。」

「優しくていい彼氏ですね。」

「...なんで最近そんなに褒めんの?
俺のこと。」

「純粋にそう思ってるからです。」

「ふーん。そりゃどうも。」

先輩はお弁当を大事そうに食べている。

「先輩やっぱり本当はすごくいい人なんですね。」

「え、俺のこと悪い人だと思ってたのか?」

「最初はそう思ってました。」

「...まあ、否定もしないけど。」

「今は全く思ってませんよ。
先輩のこと信頼してます。」

「うん...。」

なんだろうな...。

なんで今更、こういうこと言ってるんだろう。

しかもわりかし必死な気持ちで...。

先輩の反応だって、いつも通り話をきいてくれてるって感じなのに...。

ダメ押しのダメ押しで、自分の不安を全部取り除きたいのかな。

そういう...欲が出ちゃってるのかもしれない。

やだなぁ...私。

しばらく、会話もなく、私は時折チラッと先輩を見たりしていた。

先輩って...いつも表情をあまり変えないし、意外とさらっと冗談でもなんでも言えちゃう人だ。

でも、素直な気持ちを伝えるときは、笑顔だったり、行動が慎重になる。

私の気持ちに応じても、すごくよく対応してくれる。

喧嘩とかで感情的になったって、その次の日にはすぐに謝ってくれるし...。

そもそもあんまり間違ったことはいってないし。

...。

...先輩、疲れないのかな。

やっぱり、疲れてるかな。

ふと先輩と目があった。

「なんかついてる?俺の顔。」

「いえ...何も。」

「...。」

私を、先輩は不思議そうに見つめるだけだ。

えりなちゃんも深く考えないほうがいいって言ってた。

でも...。

「先輩、あれから家でもちゃんとご飯食べてます?」

「まあ、いつも通り。」

「ちゃんと栄養には気をつけてくださいね。お身体壊しちゃいけないですから。」

「ん...。」

「お昼だったら、毎日お弁当作ってあげますよ?」

「いいよ。そんな気をつかわなくても。」

「でも、こっちとしても家のおかずとか余りますし...。」

「残飯処理ならする。無理に手の込んだものとか、別に作らなくていいから。」

「はい。」

「ありがとう。」

こういう味気のない言い方も実はわざとなのかな...。

私はまだ、先輩と比べて子どもなのかな...。

本当にバカなのって、私なんじゃ...。

「...結野。」

「はい。」

「今日のお前...なんか大人びた顔してるな。」

「え...。」

心を射止められた感じがした。

私の考えてること、全部お見通しなの...?

「なんで、そう思ったんですか...?」

「んー...。なんとなく。」

「本当ですか?」

「そうだな。言葉で説明できない感じ。」

「えっと...私、嫌な感じとか出てます?」

「違う。あえて言うとすれば、

お前は、綺麗だ。」

え...?

「綺麗...?今日の私は...?」

「そう。別にいつもそうだけど。」

冗談に聞こえない...。

私自身も、冗談だろうとからかうことができなくなった。

そのまま先輩の言葉を受け止めて、繰り返すだけだ。

「...なんか、めっちゃ愛おしい。」

「...。」

「なんでこんなこと言ってんだろ、俺。」

先輩...?

「先輩のほうこそ、すごく綺麗だと思いますよ。」

「...。」

「私だって先輩と同じ気持ちというか...。
愛しい、です。」

先輩はずっと気難しい顔をしている。

それも、そんなに深く考え込んでいるというわけではなくて、例えるなら、ちょっと難しいテストを受けてるみたいな、ああいう軽いノリで...。

なんだろう。

本当に不思議...。

前までの、気持ちとは違う。

恋とか...そういうのでもなくなって来たような気がする...。

もしかして。

これって...。

「ありがとう。ごちそうさま。
弁当美味しかったよ。」

「はい...こちらこそありがとうございます。」

これって...恋よりもっと深い気持ち...?