「そんなに気になります?
遠谷先輩のこと。」

昼休み、えりなちゃんが私にそう話しかけてきた。

先輩は今、遠い沖縄にいるけど、そんなに気にしてるように見えるのかな。

「えりなちゃんはお兄さんのこと気にならないの?」

「特には。兄さんにはこのままくたばってもらってもいいくらいですよ。」

「えー...。」

「そうは言っても、兄さんは生命力が人並み外れていますから。
5階建ての建物の最上階から落ちても打撲で済んでいました。」

「嘘でしょ...?」

「まあ、だから頭がバカになってファイターに転身したんでしょうね。」

「頭打ったの...?」

「かもしれませんけど、大丈夫ですよ。石頭なので。」

えりなちゃんって本当に冷静沈着だよなぁ。

というか若干呼び方変わってるような...。

「そういえば、結局前の喧嘩ってどんな感じだったんだろう?」

「夏祭りの時のですか?」

「うん。」

「兄が言うには、グーパンしても、蹴りをしても全く動じず受け止めたって言ってましたね。彼も相当生命力が強いんじゃないでしょうか。」

「確かに...。」

「彼の拳で初めて愛を感じたとも言ってました。私も詳しいことはあまりよくわからないですけど。正直兄さんにそう言わせるなんて驚きです。」

それは私も驚き。

愛ってほんとなんなの...?

「でも、後々先輩若干痛そうにしてたかも...。」

「それは兄さんも同じですよ。
家で一晩中転げ回っていました。」

「そ、そんなに...?」

「痛がってるのか喜んでるのか定かではないですけどね。」

「そうなんだ...。」

あのときの先輩がよみがえってくる。

私に抱きついてあんなに興奮した顔を見せたのは、あのときだけだった。

あんなに弱々しい声で電話することも珍しいことだったし...。

「やっぱり殴り合ったりとかすると情緒不安定になるのかな...。」

「そうですね。戦闘で、肉体的に傷つけ合うということは、かなり動物的じゃないですか。」

「動物的...?」

「少なくとも理性的な試みじゃないですよね。どちらかといえば、動物的本能に準じたものでしょう。」

よく分からないけど...。

そういえば先輩...。

男はみんなケダモノなんだよって...。

「私はもっと...先輩のこと分かってあげたいんだけどな...。」

「あまり気にしなくていいと思いますよ。
男って大抵みんなバカなので。」

「ばか...?」

「発言と行動が矛盾していたり、思考が単純すぎたり、冷静さに欠けていたり。
そんな男に女の人は大抵苦労するものです。」

「うん...。」

「あまり気にしすぎるとこちらが疲弊する一方ですよ。」

「そっか...。」

「でも、自分にだけ気を許しているとだけ考えれば、それはありがたいことなのかもしれませんね。」

ありがたいこと...。

そうだよね。

今も不安はないわけじゃない。

でも、先輩とこうやって気を許し合える関係であることが、私にとって限りなくありがたいことなんだ。