廊下の隅の方に先輩の姿が見えた。
先輩に声をかけようと近づくと...。
「話ってなんですか。
俺、結野のところに行かなきゃいけないんですけど...。」
先輩が誰かと話している。
こちらから、見えないけど...。
「お願い。
やっぱり、生徒会の仕事、少しでいいから手伝ってくれないかな...?」
会長の声...。
「この前、資料作るのは手伝いましたよね。これ以上は難しいです。」
「分かってるけど...。」
「なるべく他の人に頼んでもらってもいいですか。こちら自体ももうモチベーションがあまりないので。ご期待どおりのお力添えができません。」
「それは...彼女がいるから...?」
...。
「あの子と付き合ってから、美礼は変わったよ。」
「...。」
「前はもっと、みんなのこと考えて、行動してくれてたし。」
「...。」
「美礼には本当に生徒会長になってほしいと思ってた。何事もリーダーとして学校を引っ張っていけると思ってたから。」
「そうですか。」
「本当は...戻ってきてほしいんだ。
誠はあんなこと言ってたけど、私は、美礼は生徒会にいたほうがいいと思う。」
「俺はあまりそうは思いませんけど。
それと、このこと、結野には話していないんですか?」
「え...。」
「戻ってきてほしいのは、俺だけですか?
結野だって、生徒会の一員として、頑張ってくれていました。」
「それは...そうだね。」
「では、もうこのぐらいでいいですか。
彼女を待たせてるので。」
「彼女って...。
そんなにあの子が大事なの?」
...。
「美礼。
こんなこと言うのは悪いって分かってるけど、美礼はあの子に踊らされすぎだよ。」
...。
「生徒会が忙しいってことはずっと前から分かってたじゃん。美礼が言う通り、あの子だって生徒会に入ってたし、そのこと理解してもらわなきゃ困るよ。」
「おっしゃることはもっともだと思います。でも、もう決めたことですから。」
「美礼は本当にそれでいいの?
本当はあの子のわがままきいてるだけじゃないの?」
「これは、俺の意思で決めたことです。
結野のことを悪く言うのはやめてください。」
...。
私の...わがまま...。
結局はそうだ...。
先輩は私といるせいで、こうやって大変な思いしてるんだ...。
分かってたのに。
見ないふりをしてた。
「私は、ただ、美礼にちゃんとしてもらいたくて...。」
「彼女との時間を大事にすることが、そんなにいけないことでしょうか。」
「それは...。」
「俺だって、人ですから、大切にしたいことや、優先したいこともあります。
そこは譲れません。」
先輩は、一礼して、その場を去ろうとした。
そのとき。
「じゃあ、私だって、あるよ。
大切なこと。」
会長が、先輩の腕を掴んでいるのが見える。
「前も冗談っぽく言ったけど、私はまだ
美礼のことが好きなの。」
あ...。
「あのときは断られたし、きっと今も彼女のほうが大事だって言うんでしょ?」
「はい。」
「でも、美礼のこと、ずっと前から見てきたのは私。
美礼の得意なことも、好きなことも、私のほうが知ってたし、一緒に過ごした経験も、まだ私のほうがある。」
「...。」
「あの子と私...何が違うの?
私だって女だよ。」
「...。」
「ねえ...あの子より、私のほうが、
美礼の彼女にふさわしい、でしょ...?」
悪魔のささやきみたいにきこえる。
「うわさだってされてた。
最近いる後輩の子よりも私のほうがお似合いなのにって、みんな...。」
頭が痛い...。
目眩がする。
「今からでも、あの子の元を離れて、
私と...。」
彼女が言ってしまう前に、私は動き出していた。
「何してるんですか。」
先輩は驚いた目をしている。
でも、その近くにいる人は、大して動揺もしなかった。
「ひとの彼氏に、何をしてるのかきいてるんです。」
「...きいてたなら、わかるでしょ。」
「私がいるって知ってたんですよね。
私に見せつけるつもりだったんですか?」
「...そうかもね。」
余裕がある表情...。
私とは違うって、そう言いたいんだろうか。
「先輩の腕、掴むのやめてください。」
「どうして?」
「先輩から離れて。」
私じゃないみたいな、低い声。
私がよほど動揺している様子を見て、満足したのか、やっとその手が離れた。
そして、何も言わずに、その場を去っていく。
私は、こうして、泥濘へと自ら足を踏み入れた。
先輩に声をかけようと近づくと...。
「話ってなんですか。
俺、結野のところに行かなきゃいけないんですけど...。」
先輩が誰かと話している。
こちらから、見えないけど...。
「お願い。
やっぱり、生徒会の仕事、少しでいいから手伝ってくれないかな...?」
会長の声...。
「この前、資料作るのは手伝いましたよね。これ以上は難しいです。」
「分かってるけど...。」
「なるべく他の人に頼んでもらってもいいですか。こちら自体ももうモチベーションがあまりないので。ご期待どおりのお力添えができません。」
「それは...彼女がいるから...?」
...。
「あの子と付き合ってから、美礼は変わったよ。」
「...。」
「前はもっと、みんなのこと考えて、行動してくれてたし。」
「...。」
「美礼には本当に生徒会長になってほしいと思ってた。何事もリーダーとして学校を引っ張っていけると思ってたから。」
「そうですか。」
「本当は...戻ってきてほしいんだ。
誠はあんなこと言ってたけど、私は、美礼は生徒会にいたほうがいいと思う。」
「俺はあまりそうは思いませんけど。
それと、このこと、結野には話していないんですか?」
「え...。」
「戻ってきてほしいのは、俺だけですか?
結野だって、生徒会の一員として、頑張ってくれていました。」
「それは...そうだね。」
「では、もうこのぐらいでいいですか。
彼女を待たせてるので。」
「彼女って...。
そんなにあの子が大事なの?」
...。
「美礼。
こんなこと言うのは悪いって分かってるけど、美礼はあの子に踊らされすぎだよ。」
...。
「生徒会が忙しいってことはずっと前から分かってたじゃん。美礼が言う通り、あの子だって生徒会に入ってたし、そのこと理解してもらわなきゃ困るよ。」
「おっしゃることはもっともだと思います。でも、もう決めたことですから。」
「美礼は本当にそれでいいの?
本当はあの子のわがままきいてるだけじゃないの?」
「これは、俺の意思で決めたことです。
結野のことを悪く言うのはやめてください。」
...。
私の...わがまま...。
結局はそうだ...。
先輩は私といるせいで、こうやって大変な思いしてるんだ...。
分かってたのに。
見ないふりをしてた。
「私は、ただ、美礼にちゃんとしてもらいたくて...。」
「彼女との時間を大事にすることが、そんなにいけないことでしょうか。」
「それは...。」
「俺だって、人ですから、大切にしたいことや、優先したいこともあります。
そこは譲れません。」
先輩は、一礼して、その場を去ろうとした。
そのとき。
「じゃあ、私だって、あるよ。
大切なこと。」
会長が、先輩の腕を掴んでいるのが見える。
「前も冗談っぽく言ったけど、私はまだ
美礼のことが好きなの。」
あ...。
「あのときは断られたし、きっと今も彼女のほうが大事だって言うんでしょ?」
「はい。」
「でも、美礼のこと、ずっと前から見てきたのは私。
美礼の得意なことも、好きなことも、私のほうが知ってたし、一緒に過ごした経験も、まだ私のほうがある。」
「...。」
「あの子と私...何が違うの?
私だって女だよ。」
「...。」
「ねえ...あの子より、私のほうが、
美礼の彼女にふさわしい、でしょ...?」
悪魔のささやきみたいにきこえる。
「うわさだってされてた。
最近いる後輩の子よりも私のほうがお似合いなのにって、みんな...。」
頭が痛い...。
目眩がする。
「今からでも、あの子の元を離れて、
私と...。」
彼女が言ってしまう前に、私は動き出していた。
「何してるんですか。」
先輩は驚いた目をしている。
でも、その近くにいる人は、大して動揺もしなかった。
「ひとの彼氏に、何をしてるのかきいてるんです。」
「...きいてたなら、わかるでしょ。」
「私がいるって知ってたんですよね。
私に見せつけるつもりだったんですか?」
「...そうかもね。」
余裕がある表情...。
私とは違うって、そう言いたいんだろうか。
「先輩の腕、掴むのやめてください。」
「どうして?」
「先輩から離れて。」
私じゃないみたいな、低い声。
私がよほど動揺している様子を見て、満足したのか、やっとその手が離れた。
そして、何も言わずに、その場を去っていく。
私は、こうして、泥濘へと自ら足を踏み入れた。

