お前が好きだなんて俺はバカだな

携帯電話の音で目が覚めた。

寝ちゃったんだ...。

時計を見ると、夜10時過ぎだった。

電話に出る前に切れてしまったが、

「先輩から...?」

何度か着信が来ていたようだ。

かけなおすと、先輩の声がすぐにきこえた。

「やっぱり寝てたか?」

「はい...。」

「そうか。
夜遅くに電話ごめん。」

「いえ...。
先輩、どうしたんですか?」

「...実は、今になって色々と痛み出してきて...。」

「え、大丈夫ですか...?」

「まあ、怪我してるわけじゃないし、
そんなに大したことないんだけど、
ほら、喧嘩とか久しぶりだったから。」

「はい...。」

「...なんというか、結構参ったな...。」

先輩の声が、いつもと比べて弱く感じた。

私になぐさめてもらいたいのかな。

「...えっと、
どんまいです、先輩。」

寝ぼけた頭でやっとそれを捻り出すと、電話越しに先輩の乾いた笑いがきこえて、

「どうもありがとう。」

冗談っぽく私にお礼を言う。

もっと期待してたことがあるのかな。

きっと、こんなとき、可愛い女の子なら。

会長なら...。

「なんでこんなことしてんだろうな、俺。」

「...分かりません。」

分からない。

先輩が何を考えているかなんて。

分かっちゃったら、辛いことだってきっとあるんだから。

「今日はあんまり一緒にいれなかったけど、それでもお前といて、すごく楽しかった。」

「それは...どうも...。」

「うん...。」

先輩の声が、やっぱりかすれているように感じる。

いつもと比べて元気がないような...。

「もしもし、先輩...?」

「きこえてるよ。」

「あ、はい...。

...あの、どうして電話...?」

「なんとなく、声ききたかったから。」

「そうなんですか...。」

「...眠い?」

「まあ...少し。」

「そっか、なんかすまん。」

「いえ、大丈夫です。」

...。

「あの、先輩。」

「ん?」

「...いえ。やっぱりなんでもないです。」

「ん...。」

「先輩も眠たそうですね。」

「いや...。
そうじゃなくて。」

「え...?」

「...やっぱり、突然抱きしめたりして、悪かったなって。
衝動的にしちゃったことだから、もしかしたら、嫌だったんじゃないかって気になって。」

あ...。

「...ほんとにごめん。」

「いえ...そんな...。」

「これからは気をつけるようにするから。
だから...俺のこと...。」

「...。」

「嫌いに、ならないで...。」

ああ...。

どうして。

どうして先輩がそんなこと...。

怖がってたのは、私なのに...。

「...嫌いになんてなるわけないじゃないですか。
だって...私は先輩のこと...。」

「俺のこと...好き?」

「はい。」

また、さっきみたいに軽く笑う声がきこえた。

でも、さっきとは違う。

安心してくれた...?

「どうもありがとう。」

「なにを今さら...当たり前じゃないですか。
そんなこと気にしてたなんて思いませんでした。」

「そんなことって、お前...。」

「だって、これまで散々、意地悪言ってたでしょ?」

「うん。」

「普通そっちの方が後ろめたい感じじゃないですか?」

「確かにそうだな。」

「先輩って変ですね。」

「そりゃそうだ。」

「自分で認めるんですね。」

「ああ。
こんな変な俺でも付き合ってくれる結野は優しいな。」

「それ、本気で思ってます?」

「思ってるに決まってるだろ。」

「本当ですかね...。」

「本当だって。」

徐々に先輩の声の強さが戻ってきた。

声が耳に響いて、ちょっとくすぐったい感じがする。

やっと、私も調子を取り戻せた気がする。

落ち着いたら、また眠くなってきちゃったな...。

「先輩、私もう...。」

「うん、おやすみ。」

「おやすみ...なさ、い...。」

電話を切ったかどうかも覚えていないくらい、突然の睡魔だった。

ただ、先輩が最後に、

また、夢みたいなことを言っていた気がする...。

「だいすきだよ、結野。」