【完結】その口止め料は高すぎますっ

「牧瀬さん、年齢はいくつだっけ?」
唐突に彼が問うた。

「…今年で26歳です」
戸惑いながら答える。

ちょうどいいな、と彼が自分に言い聞かせるようにつぶやく。
なんのことだろう。

「じゃあ、取引しよう」

「取引!?」
思いがけない言葉に顔をあげて小原さんを見返す。

そう、とうなずく彼の目は笑っていない。それが余計に不安をあおる。

「婚約者になって欲しいんだ」

「どういう…意味ですか?」
おそるおそる口にする。こんやくしゃ、ってあの婚約者以外ないよね?

「正確には、一定期間婚約者のふりをして欲しいんだ」

「どうしてですか!?」
彼の言うことにまるでついていけない。

「話すと長いような短いような」
小原さんが首をかしげたところで、パスタの皿が湯気をたてて運ばれてきた。
まだふたりともサラダを食べ終えていなかったけど、小原さんはパスタの皿を引き寄せた。

「せっかくだから熱いうちに食べようか」とパスタをフォークに巻きつける。

あ、わたし学生の時、飲食店でアルバイトしてたから、できたてを食べてほしいっていう気持ち分かるなあ。
妙なところで小原さんに親近感を覚えてしまう。