「ふっ、おもしれーやつ。
いいよ、利用させてやるよ。

そのかわり、絶対に俺を好きになるなよ?

約束だ。
それが俺の隣にいる条件」

目の前の男は腕を組んで不適に笑い、私を見下ろした。

「もし…。
万が一好きになったら?」

心臓がどくんと嫌な音をたてる。

「その時は、友達じゃなくてただのいちクラスメートだ。

俺は佐藤には絶対に惚れない。
だから佐藤も俺に絶対に惚れるなよ。
約束だ」

差し出された右手を、躊躇いもせずにすぐに掴んだ。

この時の私はこの約束の重さに気がつかなかった。
単純に隣にいられればいいと思っていたから。

でも………

くったくのない笑顔、同性の友達とおなじように気さくに私に接する彼が、心に入り込むのなんて簡単だった。

それでも、異性の中で誰よりも近い蓮司の隣のポジションにいられることが嬉しくて、それがずっと続くような勘違いをしたまま、同じ会社に就職して、同級生から同期に私たちの関係性は移り変わった。

蓮司の一番の理解者で一番近い女なんだと私は大きな勘違いをずっとし続けていた。

私にとって大事な特別な人だと気づいてしまった時には全てが遅すぎて…あのとき交わした約束が簡単なたった二文字の言葉を口にすることを許してくれなかった。