ヴェルト・マギーア ソフィアと虹の花

「そして虹の花は開花してからは時間との勝負だよ」

「っ!」 
 
ミカエルは洞窟を出ていく最後に、こちらへ振り返ると言う。

「虹の花は開花してから約二日間だけ、花を咲かせて三百年間ため続けた魔力を放出する。その間に君が彼女の血を手に入れる事が出来たら、君の願いは叶うよ」

「……そんなこと分かってるさ」

「なら、良いけどね。その虹の花はあと一週間もせずに花を咲かせるだろう。その間に君があの子たちに、あとどれだけのことを託せるんだろうね?」
 
その言葉に俺はずっと疑問に思っていたことを、ミカエルに問いかけた。

「やっぱり知っていたんだな。ソフィアのことを」
 
その名にミカエルは小さな反応を見せると、軽く目を見開いた。

「ああ、知っていたよ。彼女が最後の魔人族の生き残りだってことも、彼の血を引いていることもね。でも彼女の存在は君にとって必要だったからね。だから敢えて残してあげていたんだ」
 
残していてあげていたか……。

そりゃどうもと、お礼を述べてやりたところだが、そんな気になれる奴なんて居ないだろう。

こいつはきっとこの件が済んだら、ソフィアを殺そうとするはずだ。

心から憎んでいる種族の生き残りが居るなんて知ったら、もう一度根絶やしにしようとするために動く。

それがこいつだ。

「ずっと前から気になっていたんだけどさ、どうしてお前は魔人族を嫌っている? いや、恨んでいるんだ?」
 
魔人族を滅ぼしてやると思ってしまう程の憎悪を、こいつは内に抱えている。

それはそう思ってしまう程の何かがあったことになるんだ。

「珍しいですね。君の方から私に興味を持ってくれるだなんて」

「ほざけ。誰がてめぇ何かに興味を持つかよ。俺はただ知りたいだけだ」
 
ソフィアとアレスのためにも、この件は知っておく必要があると思っていた。

どうしてミカエルは魔人族を憎んでいるのか。

憎んでいると言っても、それは一つの種族を滅ぼしてしまう程の憎しみなんだ。
 
それが今度ソフィアに向けられるとなると、今のアレスたちでは絶対に太刀打ちできない。

この俺ですらミカエルに勝てないのだから。

「なるほど、ただ君が知りたいだけですか。しかし今の君は私の事を気にするよりも、残りの一週間で彼女たちに何が出来るのかを考えるのが、最優先ではないのですか?」