「今後のためって……じゃあやっぱり、ブラッドがソフィアの事を狙っているのは間違いないのね。そしてあなたが言っている【約束】って言うのは、きっと――」

「それ以上は他言無用ですわよ。誰に聞かれているのかも分からないのですから」
 
セイレーンはそう言うと、私の直ぐ側にあった木へと視線を移動させた。

私も釣られて視線を動かすと、木の後ろからさっきセイレーンの側に立っていた人物、ミーアが姿を現した。

そしれミーアが右手に持っていた物を見て私は声を上げる。

「ムニン!」
 
ミーアは気絶しているムニンを片手で持ち上げていた。

「耳の良い人にはちょっとご退場をお願いしました。なのであなたも、ご退場してもらいます」

「……あなた達の狙いは何なのよ? もしソフィアの血を狙っているのなら、事情を話せばソフィアはブラッドに手を貸す子だわ。こんな回りくどい事なんてしないで、正面から堂々と来なさいよ」

「あなたのおっしゃる通り、この件は彼女が協力的になってくれれば、無駄な血を流す事なく終える事が出来ます」

「なら――」

「しかしブラッド様はその事を望んではいません」
 
その言葉に私は目を見張った。

「あんな弱いままの彼等が、あのブラッド様に敵うわけがないでしょう? だからブラッド様は慈悲をあげたのですよ? 弱い物を虐めるよりも、強くなって戦った方が俄然楽しいのですから」

「なん、ですって……!」
 
じゃあ、あいつは自分と戦って貰うためだけに、アレスたちに修行を付けているって言うの? 

アレスやソフィアたちの気持ちすら踏みにじって、ただ己の願いのためだけにソフィアたちを利用しようとしている。 

ブラッドもまた同じじゃない! 

サルワやヨルンと何も変わらない己の欲望のためだけに、何でも利用しようとする強欲の怪物だ!

「まあ……あなたになら、ブラッド様は本当の事を話してくれるかもしれませんが、今は大人しく来てもらいます」
 
セイレーンはそう言ってマールの刀身に魔力を注ぐ。

その光景を目にした私はその場から逃げようと試みたけど、すかさずミーアが水の輪を使って私の体を閉じ込めた。

「っ!」

「さあ、参りましょうか、黒猫ちゃん」
 
水色に光輝く刀身が水の輪を真っ二つに斬り捨てた時、私の意識は痛みと共に途絶えた。