しかし今の彼にとって、オフィーリア以上に価値のある物なんてあるのかしら? 

……いや、【彼女】がそうじゃないかしら?
 
もしあそこに、彼女の亡骸があるのだとしたら……。

彼にとってそれは、誰にも見られたくない物で、誰にも触れられたくもないもの。
 
でもブラッドは何百年と生きているんだとしたら、彼女の亡骸はとっくに朽ち果てているはず。
 
彼女の命でもあった星の涙は、エアの願いを聞き届けてこの世から消滅してしまったと言うのに、死んでしまった人の亡骸をそんな大事にして隠す必要が……。

「……まさか」
 
ブラッドが私たちに近づいたのって……まさか!

「あら、気づいてしまいましたか?」

「――っ!」
 
突然、耳元で聞き覚えのある声が聞こえて、私は直ぐに大きく横へと飛んだ。
 
すると私の黄金の瞳に、ターコイズブルーの髪が飛び込んで来た。

「ふふっ。そんな警戒する事ないじゃないですか?」
 
セイレーンはそう言いながら嫌な顔を浮かべていた。

その姿に私は警戒心むき出して、少しずつ彼女と距離を離すために後ろに下がった。

「ブラッド様から聞いてはいましたが、やはりあなたを警戒しておいて正解でしたね」

「警戒していた? この私を? あの人に言われて?」
 
という事はブラッドは私が何かに気づくことを分かっていたのね。

まあ、確かに彼にはちょっと思わせぶりな雰囲気を醸し出して、色々と質問をした事はあるけど、まさかそれだけで警戒されるとは思っていなかったわね。

「ブラッド様は申されていました。あの黒猫は感が鋭そうだと」

「へ〜……黒猫ね。まあ確かに私は、使い魔の中では知識は豊富で優秀だし、感は鋭い方だとは思っているわよ」

「ふふっ。そうですか。しかし申し訳ないのですが」
 
するとセイレーンは鞘から魔剣マールを抜いて見せた。その姿にぎょっとした私は数歩後退った。

「ま、まさか私を斬る何て言うのかしら?」

「はい、そうです」
 
そ、即答するのね……。ちょっとは否定して欲しいところだったんだけど。

「あの方との約束を果たすためにも、あなたみたいな感の鋭い人は、排除して置く方が今後のためなんですよね」