「テト? どうかしたの?」

「う、ううん。何でもないわよ。私は先に戻るけど、ソフィアはどうする?」

「私は少しアレスと話して来るよ」

「分かったわ。じゃあ、また後でね」
 
そう言って私は何もなかったように、直ぐに元の調子へと戻ったかのように見せる。

ソフィアは私の言葉に頷くアレスの元へと歩いて行く。

その背中を見届けた私は、元来た道を戻り始めた。

「……」
 
もし仮に……あの人が何百年と生き続けている人間なのだとしたら、少なくとも誰にもあの人に勝つことは出来ないわね。

何百年と生き続けた人間の魔力量は底が知れない。

だって現にあの人は、魔剣の力をその身にまといながら一年は余裕で過ごしたと、アムールは言っていた。

それをもう何百年と続けているんだとしたら……。

「っ!」
 
ブラッドの目的が分からない以上、彼を警戒する事は怠らない方が良いわね。

彼はもしかしたら時空の割れ目を塞ぐ以外にも、私たちに何かを要求してくるかもしれない。
 
それにさっき一瞬だけ見せたあの時の殺意も気になる。

あの時の彼は思い出すだけでも鳥肌が立つくらい凄い殺気を放っていた。
 
ソフィアたちからしたら小さな殺気だったかもしれないけど、私からしたらとんでもないくらいの殺気量だった。

動物的本能が働いた、なんて言いたくないけど、確かにあの時私は【やばい】と思ってしまっていた。
 
もしかして忘却の山に何かあるのだろうか? 

忘却の山はもうずっと前からそう呼ばれる山であって、名の通り立ち入った者の記憶を忘却してしまう。
 
でもカレンも言っていた。

もしかしたらこの忘却の山には魔法が働いているのかもしれないと。

忘却の山の効果を無効化する魔法があるように、人の記憶を忘却する魔法が実在するんだとしたら、それをいったい何の為に使うのか。
 
ブラッドが殺気を見せるくらいに、もしあの山で何かが起こったとするなら、彼にとっての何かがあそこにある事になる。

それは人の記憶を忘却してまで、見られたくない程の物なのだろう。