ヴェルト・マギーア ソフィアと虹の花

「あらあら、大丈夫なのですか?」

「っ!」
 
突然、後ろから声が聞こえてきて俺は咄嗟に振り返った。

するとそこには人間の姿に戻ったエクレールさんが、心配そうに俺を見てきていた。

「……エクレールさん」

「随分と怖い顔をされているのですよ? 一回深呼吸して心を落ち着かせて見てください」

「……はい」
 
エクレールさんにそう言われた俺は、ゆっくりと深呼吸をした。

そんな俺の姿を見たながらエクレールさんは優しい笑みを浮かべた。

「落ち着いたのですか?」

「……少し、落ち着きました」

「そうなのですね。良かったのですよ」
 
エクレールさんのおかげでぐちゃぐちゃだった頭の中が少しスッキリした。

でも……それでもやっぱり。

「あなたにお話があるのですよ」

「……話ですか?」
 
その言葉に目を瞬かせる俺をエクレールさんは、ニッコリと笑みを浮かべながら見てきていた。

✩ ✩ ✩

「これはとある男の人のお話なのですよ」
 
エクレールさんと俺は木の下に座った。そしてエクレールさんは話だした。

「昔々とある山奥に住んでいた彼は、まだ十四歳と言う若さで村の長をしていのです。そんな彼の家族は、まだ幼い妹だけでした。父親から新しく長を継いだ彼は、村の人とたった一人の家族を守るために、一人で戦う事を選んだのですよ。しかしその道はとても険しいものだったのです。自分たちの力を狙ってやって来る他の種族たちを、彼は何とか一人で追い返していましたが、彼の体は既にボロボロだったのです」

その話を聞いているなかで、俺はエクレールの言う【彼】の姿が思い浮かんでいた。

しかしそれが本当にあの人なのか革新が持てなかった。

だから俺は何も言わず、ただエクレールさんの話に耳を傾ける事にした。