ヴェルト・マギーア ソフィアと虹の花

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「……」
 
俺は木の下に立ち尽くしながら、目の前に広がる湖を見つめていた。

そしてさっきブラッドさんが言っていた言葉を思い出す。

「そんな中途半端な願いを抱いている今のお前じゃ、大切な人なんて誰一人守れやしないぞ」

「くっ!」
 
俺は唇を噛んで力を込めた拳を直ぐ隣にあった木に打ち付けた。

ジリジリと手の甲が痛み始める。
 
ブラッドさんがあんな事を言ったのは、俺のためを思ってだってことくらい頭では分かっていた。

しかし頭で分かっていても、やっぱり納得する事が出来なかった。
 
確かに俺はソフィアたち仲間が居てくれるから、自分一人では乗り越えられない事を、仲間が居てもらう事で一緒に乗り越えて行けると思っていた。
 
でもブラッドさんはそんな俺の考えを真正面から否定した。

ブラッドさんの言う通りずっと仲間が側に居てくれる事を、俺は当たり前のように思っていたんだ。

「それの……何がいけないって言うんだ!」
 
ブラッドさんはまるで、仲間に頼ることを心良く思っているようには見えなかった。

それはきっとブラッドさんがずっと一人だったという事も関係しているのかもしれない。
 
でも俺とブラッドさんが歩んで来た道は違うものだ。
 
ブラッドさんが歩んできた道には、あの人が自分で【仲間】と思える人は居なかったのかもしれない。

だからあの人は全部一人でやって来たんだ。

一人でオフィーリアさんとの約束を果たす為に歩き続けて全部背負って戦ってきた。

だから俺にとってブラッドさんは凄く尊敬出来る人で、俺もいつかあなたみたいになりたいと思っていた。

でも俺は……あの人みたいにはなれない。

だって俺はソフィアたち仲間が側に居てくれたから、ここまで来る事が出来たんだから。

きっと一人だったら心はとっくに折れていたと思う。
 
俺はブラッドさんみたいに、一人で道を歩んで行くことが出来るような人間じゃない。

誰かが側に居て支えてくれる人が居なければ、俺はきっと前を向いて歩く事は出来ない。