ヴェルト・マギーア ソフィアと虹の花

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「本当に……ブラッドとアレスは似ているな」
 
ブラッドとアレスのやり取りを見守りながら、俺はレーツェルの隣で胸の前で腕を組みながらそう小さく言い放った。
 
なぜ、ブラッドが他の誰よりもアレスに厳しい言葉を向けるのか。

それはあいつが誰よりも、アレスに期待しているって事もあるからだ。

しかし一番の理由はアレスに昔の自分を重ねていることだろう。

「アムール様……ブラッドはどこへ行ったのでしょうか?」
 
レーツェルのその質問に俺は彼女へと視線を動かす。そして忘却の山のある方へと軽く振り返った。

「……さあな」
 
たった一言それだけ言って俺は彼女へと目を戻す。

「レーツェル。お前が心配することはないさ。あまり深く考え込みすぎると、お前の体にもよくない」

「でも……」
 
レーツェルがブラッドを心配するのも無理もない。

あいつはこれまで一度も俺たちに弱音を吐いた事がなかった。

別に信頼されていないとは思っていない。

むしろあいつには心から信頼されていると思っている。

だからこそあいつは、俺たちには一切の弱音を見せてはくれない。

たとえ見られてしまったとしても、あいつが同情の言葉を求めるわけでもないだろう。
 
ふとそんな事を考えていた時、俺の左手をレーツェルがそっと握ってきた事に気がついた。

少し頬が熱くなるのを感じながら彼女を見下ろした時、俺は軽く目を見張った。

「サファイア。俺とレーツェルはちょっとその辺を歩いて来る。ブラッドが帰って来るまで、それぞれ休憩させてやってくれ」

「……ああ、分かった」
 
俺の言葉に頷いてみせるサファイアを見届け、俺はレーツェルの手を引いてその場から離れた。