ヴェルト・マギーア ソフィアと虹の花

「あなたの目的を果たすための準備は、もう全て整っています。それだと言うのに、あなたは未だに行動を起こそうとしない。それはいったい何故なのですか？　最後は殺す存在の彼等と一緒に過ごす内に、同情でも湧きましたか？」

「……何だと？」
　
【同情】と言う言葉に、俺のこめかみがピクついた。

しかし俺の中で微かな怒りが芽生えようとも、今の彼女の言葉が本心ではないと言う事は分かっている。

だが……反応せずには居られなかった。

「あなたはずっと、自分の目的を果たすためだけに生きてきました。ですので、こんな無駄な時間を費やす必要はないと思うのですわ」

「……ふっ、そんなことないさ」
　
俺はそう言いながらセイレーンへと向き直りながら、右目をカッと見開いた。

「……退屈なんだよ。一方的にこちらが傷めつけても、こっちは全然楽しくも面白くもない。だから俺は自分が楽しむためにも、あいつらを見てやっているだけさ」
　
そう、決してあいつらのために俺は修行をつけてやると言ったんじゃない。

全ては俺自身のために力を付けてもらっているんだ。
　
あいつらが何のために強くなりたいかなんて、そんな事どうでも良いことだ。

そもそも興味もない。

「ふふ……そうですか。なら、安心致しました。あなたがそうして変わらず、自分のためだけに動いている事を知れて、わたくしは嬉しく思います」

「ふん……そうかよ」
　
俺はそう吐き捨てるように言って、右目に包帯を巻き直しながらアレスたちの方へと振り返る。

「それじゃあ、お前にも俺の目的のために働いてもらおうか」

「と、言いますと？」

「お前にある人物を見張っていてもらいたい」
　
その言葉にセイレーンとミーアは、互いに顔を見合わせて首を傾げた。