ヴェルト・マギーア ソフィアと虹の花

「……ひぇっ」
 
俺は恐る恐る横目でマールの刀身を見る。

そして今目の前で怖い目を浮かべているセイレーンへと目を戻した。

「お言葉ですけど、それを言うならあなたも年齢を詐称しているではありませんこと? いくら肉体の老化が止まって見た目が変わらないと言いましても、あなたとわたくしの年齢はそう違わないと思いますけど?」

「ご、ごもっともです……」
 
俺はごくりとつばを飲み込んで勢いよく頷いた。

『おい……ブラッド。女性相手に年齢の事を言うのは失礼だぞ』

『そうだよ〜、ブラッド。アルルの言う通りだと思うよ』

『お前もお前で……いい加減人の名前をちゃんと呼ぶって事を覚えろ』

『えっ? でも可愛くない? 【アルル】』

『可愛くないだろ……』
 
アルとマールのそんなやり取りが頭の中で流れた時、セイレーンは一息吐くとマールを鞘へと戻した。
 
そして俺たちから少し離れた位置に居る、アレスたちに目を配った。

そしてその中に居るソフィアのところで目を止めた。

「あれが【魔人の姫】ですか」

「……ああ」
 
魔人の姫――それは彼女の母親であった、エレノアがかつてそう呼ばれていた名だ。

その兄であるリヴァイバルは【魔人王】と呼ばれ、その血族であるソフィアもまた、母親と同じく【魔人の姫】と呼ばれる存在になる。

それは彼女が魔人族の中で、もっとも特別な血を引いているからだ。

特別な血とは魔人王と同じ――【蘇生の血】の事だ。
 
魔人王の妹であったエレノアは、その蘇生の血を引いてはいなかった。

だから魔人族の中では唯一、リヴァイバルだけが人を蘇生させる事が出来たと言われた。