「なあ、アレス。近々マーガレットさんの誕生日なんだろ?」

「えっ、あ、はい」
 
ブラッドさんは着ていたエプロンを取ると、人数分に盛ったシチューを机へと運んで行く。

「何でもっと早く教えてくれなかったんだ? 誕生日は年に一回しかないビックイベンドだろ。もっと早く知れていれば、色々と準備したのに」

「え、じゃあこれは……」
 
母さんのために準備してくれたってこと?

「……こうして家に置いてもらっているんだし何かお礼をと思って、今夜は俺が手料理を振る舞う事にしたんだ。金欠だからこれくらいしか出来ないけど……」
 
ブラッドさんはそう言いながら、少し気まずそうに頬を掻く。

「いいえ、そんなことないですよ。ブラッドさんにはアレスもお世話になっている事ですし、お礼を言うのはこちらの方です」

と言って、母さんは椅子から立ち上がると軽くお辞儀をした。その姿に俺とブラッドさんはギョッとした。

そして直ぐにブラッドさんが。

「や、やめて下さいよ、マーガレットさん。お礼を言われるような事なんて、あまりしてないですよ」

えっ! いやいやそんな事ないですよ!

「それにちょっと早い誕生日会ですけど、今日の主役はあなたです。なので俺の料理楽しんでくださいね」

ブラッドさんはそう言うと、自分の事のように嬉しそうに笑った。

そんなブラッドさんの顔を見たら俺も自然を笑顔がこぼれた。

それから俺たちは、ブラッドさんが振る舞ってくれた食事を楽しみながら、母さんの誕生日会を開いたのだった。