ヴェルト・マギーア ソフィアと虹の花

「アレス? どうかしたの?」

「……いや、何でもない」
 
今になって考えると、ブラッドさんの行動には疑問を抱くことがある。まずは、俺に魔剣エクレールを渡してきたことだ。

あの時、魔剣の知識なんてまったくなかった俺に、どうしてブラッドさんは魔剣を渡してきたのか。

あの場面では誰よりも魔剣に詳しいブラッドさんなら、彼女の力を使って粒子たちを浄化することだって出来たはずだ。

でも彼はそうはしなかった。

魔剣は一人に一本と言われているけど、ブラッドさんは魔剣アムールと魔剣レーツェルの二本を使えていた。

それは彼がこの世界のトトだからと思えば不可能なことじゃない。最悪、魔剣全ての力を彼は使う事が出来るのかもしれない。

レーツェルさんを使ってヨルンに取り憑いていた、暴食の悪魔を斬り捨てた時のブラッドさんの姿は容赦がなかった。

それは彼が前に言っていた【要らない同情は持つべきじゃない】と言うものから来ているのだろう。

それはきっと、過去に同じような体験をブラッドさんはしているからだ。

アルさんが言っていた【この世界のトトにならざるを得なかった】という言葉とそれは、繋がっているのかもしれない。

✩ ✩ ✩

ソフィアを家まで送り届けた俺は、ムニンとエクレールさんと一緒に家に向かって歩いていた。
 
そして家に着いて扉を前に軽く押した時、家の中から良い香り漂ってきた。

「この香りは?」
 
もしかして今晩の夕食か何かだろうか? 

そう思いながら家の中に入ると、俺が帰って来たことに気がついたのか、隣の部屋からレーツェルさんがひょこっと顔を出していた。