ゆっくりと水晶に近づいて行くと、水晶の中にある人影が映し出される。

そして水晶の直ぐ目の前に立った俺は、伏せていた顔を上げて緑色の左目を優しく細めた。

「……ただいま、オフィーリア」
 
そして亡き恋人の名前を小さく吐き出す。右腕を軽く上げて、指先で水晶に触れた。
 
この中には俺の亡き恋人が、死んだままの状態で保存されていた。

そのおかげで彼女の体は決して朽ちることがない。

今もあの時のまま、命を落とした直後の状態でこうして保存されている。
 
彼女は水晶の中で、祈るように手を絡めて眠っている。

そんな彼女の胸元には、光を失っているむき出しの雫(ロゼ)――星の涙(ステラ・ラルム)の存在があった。
 
しかし星の涙は輝きを失っていて、もう魔力を感じ取る事はなかった。

「……あと、少しなんだ」
 
俺は複雑な表情を浮かべて、目を瞑っている彼女の顔を見上げた。

「あと少しで……お前に会える。もう一度……お前の声が聞けるんだ」
 
そう思っただけで左目から涙が零れた。
 
俺はずっとお前ともう一度出会うためだけに生き続けた。

苦しかったこと、辛かったことなんて山程あった。

お前を失った時の記憶を思い出すたび、激しい憎悪や怒りに心が囚われそうになった事だってある。

でも……それでも俺は諦めなかった。

もう一度お前に出会うため、たったそれだけのために俺は……歩き続けたのだから。

「オフィーリア……愛しているよ」
 
最後に彼女にそう告げた俺は、フードを被り直すと鋭い目を浮かべた。
 
お前を取り戻すためなら、俺はどんなことだってやってみせる。

例えこの手が血に染まろうとも、お前と一緒に未来へ行けなかったとしても、お前が幸せに笑って暮らせる世界を手にする事が出来るなら、俺はそれだけで構わないんだ。