ヴェルト・マギーア ソフィアと虹の花

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「本当に良いのですか、兄上」

「ん? 何がだい?」

「虹の花のツボミのことです。あれは本来、近々行われるオークションで出品予定の品だったはずです。それだと言うのに、ああも簡単に彼に渡してしまうなど」
 
ウリエルのその言葉に私は軽い笑みを浮かべた。
 
確かに彼女の言う通り、虹の花のツボミはオークションに出品する予定の品だった。

もちろん高額の取引が行われるため、私も誰に渡そうかと悩んでいたものだ。
 
しかし虹の花の価値を知る者が、あのオークション会場に居ないと私は思った。

あんなたかが二日程度しか咲かない花などを狙ったところで、金の無駄遣いになるだけだと言うのに。
 
だから私は彼に渡したのだよ。

元々、あの花は彼に渡すつもりだったしね。

「良いんですよ、ウル。あの花がなければ、この世に再びエア様は現れないのですから」

「それは……そうですけど」

「私たちの目的を果たすためにも、早くオフィーリア様には元気になってもらわないと」
 
しかし……なぜオフィーリア様は生きていたのだ。

彼女は確かにあの時に死んだはずだ。

私もこの目で確認している。

星の涙からも魔力の反応は感じられなかった。

「……っ」
 
だがこれでは私の思い描く結末ではなくなってしまう。

だからオフィーリア様には全ての事が終わるまで、再び深い眠りに入ってもらった。
 
彼女が生きていると知ったら、彼は絶対にソフィアたちと戦う事はしないだろうからね。

「ウル。この世に再びエア様の存在が現れた時、その時はお前にも働いてもらうよ」

「分かっています、兄上」
 
私たちの目的を果たすためには、オフィーリア様の存在は必須。

再びこの世にエア様が訪れなければ、この世界は闇の覆われてしまう。
 
ウルを含める今の守護者たちだけでは、あの七人と互角に戦うのはまず無理だ。

だからブラッドもアレス君たちを鍛えているのだろう。
 
今後の事を託すために――

「まったく……エア様がこの世に存在しても、君の存在がなければ全員が集うことなど難しいのだよ?」
 
新たなトトには目星を付けてある。

しかし今の彼には荷が重すぎる席だ。

だからしばらくトトの席は空白にさせてしまうことになる。

「果たして次のトトの代わりになる人を、オフィーリア様は選ばれるのかね?」
 
もう星の涙はこの世に存在していない。

だからこの世界のトトを選ぶ権利がある者は存在しない。
 
だから――

「さあ、君は誰をトトに選ぶのかな? ブラッド」
 
そう小さく呟いた私は、閉じていた目を軽く見開いた。