「今頃アレスはソフィアと街へデートか。若いって良いな」
 
そんな事を言いながら体をぐるっと回転させて、俺は天井を軽く睨みつけた。

「ま……俺もアレスたちとそんな年変わらないけど」
 
そうボソッと呟いて、体を起き上がらせた。そして部屋の中を見渡す。
 
アルとレーツェルも街へ買い物に行っているし、エクレールはアレスに着いて行っているし、マーガレットさんも仕事に出ていて家には誰もいない。

「……俺一人か」
 
そう思いながら俺は窓の外を見つめた。

その拍子に首から下げされた翡翠石が一瞬だけ煌めく。

その事に気がついた俺は、そっと手の中に翡翠石を握らせた。
 
もうずっと肌身離さず付けているこれも、一番最初に目にした頃に比べれたら大分形が変わってしまったな。

オフィーリアから譲り受け物だけど、いずれは彼女に返すものだ。

だってこれは今の俺に必要のないものだから。

「自分の身くらい……守れるさ」
 
オフィーリア。

俺はあの時よりもずっとずっと強くなった。

だから自分の身はもう自分で守れる。

だからこれは……お前に返そうと思う。

これはお前にとって大切な物でもあるんだから。
 
そう思いながら苦笑し、優しく目を細めて指先で翡翠石を撫でた時だった。

「――っ」
 
背後から嫌な魔力の気配を感じて心臓が大きく跳ねた。

その嫌な気配に覚えのある俺は、ぎゅっと翡翠石を掴んで顔を伏せる。
 
徐々に心臓の心拍数も上がっていき、額に嫌な汗がじわりと浮かんだ。