桜を見上げながら
 しみじみ考えていた時。


「あれ?
 十環と桃華ちゃんは?」


 飲み物を取りに行って戻って来た
 小百合に声をかけられ
 体がビクンと跳ねた。


「十環の部屋に行った。
 なんか、桃にご褒美をあげるとかで」


「ああ~。
 不器用なくせに
 必死に作ってた、あれね」


「あれって何だよ」


「私の口からは教えられないよ。
 後で桃華ちゃんに見せてもらえば」



 いつも通り
 冷たい返答の小百合。


 これが俺たちにとっての当たり前。


 だから俺も
 小百合に気なんか使わなくて
 ガンガン言いたいことが言えていたのに。



 二人になった瞬間から襲われた
 このドキドキのせいで
 いつもみたいに
 歯切れのいい返事ができない。



 それもこれも、あの日のせい。