「光一くん、いや、専務。
これを今、もらったんですけどね」
帰る間際、光一は監査役に呼び止められ、白い小さな箱を渡された。
「有名なお店のシュークリームらしいんですが、うちは、家内も私もカスタードが苦手でね。
貴方、苦手でないのなら、どうですか?
あの可愛らしい奥さんと二人で食べてください」
……あの可愛らしい奥さんって誰だ、と一瞬、思ってしまう。
「花鈴さんは、シュークリームは苦手かな?」
と監査役に穏やかな口調で問われ、
いや、知りません……と光一は思っていた。
彼女の好みなど、なにも知らない。
写真を撮るときに、店の人間に、珈琲と紅茶どちらがいいかと訊かれて、紅茶と答えていたのは覚えているが。
そんなことを考えながら、なんとなく、その箱を受け取る。
「それ、賞味期限、本日中ですからね。
早めに食べてください」
じゃあ、と言って、専務は行ってしまった。
いや、本日中のものをこの時間にもらっても渡しにはいけないんだが、と思ったが。
そういえば、彼女と結婚しているという設定だった。



