「失礼します」
職場に戻った花鈴は専務室に資料を届けに行った。
まだ先輩秘書の人に言われた通りになにかする、くらいしかできないのだが、それすらもドキドキしていた。
「ありがとう」
と一応、こちらを見た光一に、
頑張るなって言われたけど、頑張ってますよーと思いながら、頭を下げ、出て行こうとしたが、
「待て」
と言われる。
振り向くと、
「ちょっと思ったんだが」
と光一は革張りの椅子に背を預け、言い出した。
「お前と出会ったあの頃は俺も若造だったから」
いや、今でも充分若造ですよ。
「百戦錬磨の役員たちに見合いをどうのこうのと言われて、耐えかねていたんだが。
よく考えたら、今なら別に跳ね除けられる気がするな。
そういえば、最近、お前の写真も使ってなかったし。
ってことは、もうお前とは結婚してなくてもいいんじゃないか?
若気の至りで結婚したが、別れたってことにしようかと思うんだが、どうだ」
いや、どうだと言われましても……。



