「あんた、さすらいの詩人になるとか言ってたのに、なにまともな企業に就職してんのよー」
花鈴が到着すると、既にもうかなり出来上がっていた仙子が開口一番、そう罵ってきた。
ビール工場が経営している大きなビアホールだ。
いつも人が多く、ごった返しているが、誰も周囲気にしてないこの雑然とした感じが好きだ。
「いやあ~、でも本当にさすらいの詩人になるところだったよー。
他の会社全滅だったからさー」
などと言いながら、花鈴は空いていた仙子の横の椅子を引く。
呑気にやっていた学生時代。
世間の荒波に揉まれることが恐ろしく、詩人になって旅をする、とか意味不明なことを言いながら、就職活動をしていた。
「いいじゃん。
いい会社じゃん。
あんたっていつもそうよね。
大学受験のときも滑り止め全部落ちたくせに、本命の一校だけ通ったんだよね」
と仙子が笑う。
「ついてるんだねー、西辻さん」
と目の前に座る男が言った。
えーと、誰だっけな、と酔ってもないのに花鈴は思う。
そう思っている気配が伝わったらしく、彼は自分から名乗ってきた。
「あ、高三のとき、隣の隣のクラスだった宮地尚人です」
「あ~、思い出した。
爽やかなイケメンだって、有名だった。
うちのクラスの女子に調理実習のサンドイッチとかもらってた人」



