ウエディングドレスを着せてやろう

 


 今より少し前、早朝ウォーキングをしていた花鈴の父、尚成(ひさのり)は星を見上げていた。


 最近は、朝、ウォーキングをする人が多いので、ちょっと早いくらいでは、いろんな人に出会ってしまう。

 いや、別にいろんな人に出会っても自分はかまわないのだが。

 最初は一緒に歩いていた志木子が、
「誰にも会わない方がいいから。
 化粧しなくていいし」
と主張してくるので、かなり早い時間に歩くようにしたのだが。

 結局、志木子は、
「起きれない」
と言って、一緒に歩かなくなってしまったのだ。

 だが、暗い中を歩いているうちに、()がしらじらと明けていくのが気持ちよくて、癖になり、毎日、ひとりで薄暗い中を歩くようになった。

 まだ冷たい朝の空気を感じながら、尚成は星を見上げる。

 ああ、このひとりの時間がなんだか好きだ。

 孫も子どもも可愛いが。

 いい大人になった子どもは口うるさく、孫の相手は体力がいる。

 そして、妻はいつも自分を責め立てる。

 ……いやいや、なんだかんだでいい家族だ、うん。

 束の間の休息を味わいながら、朝日に消えゆく星を眺めていた尚成だったが、ぎゃーっと悲鳴を上げそうになる。

 スーツ姿の男が妙に緊迫した感じで、白い塀の陰からこちらを窺っていたのだ。