ウエディングドレスを着せてやろう





「まさか、あのときの娘が大人になって化粧して、ジジイどもの前に現れるとはな……」
と光一は専務室で呟く。

 はあまあ、そのとき子どもでも、いずれ大人になりますよね……。

 そんな判断能力さえ無くすくらい困ってたんだな、と今、改めて花鈴は思う。

 若者に似合わぬ大きなどっしりとしたデスクの前に立ち、光一は言う。

「俺は結婚なんてする気は、さらさらない。
 生涯独身で気ままに過ごしたいんだ。

 父親が母親に振り回されるのを見てきたからな。

 だから、今まで、お前の写真に助けられていたんだが……」

「よく似た別人で、誤魔化せばよかったですね」
と花鈴は呟く。

 だが、なにを言ってもあとの祭りだ。

「役員のみなさんには、お前が俺の妻だということは伏せておいてもらうことにした。

 本当なら、最終面接で落としたいところなんだが。

 ……うちの最終で落ちるやつほとんど居ないからな」

 そうでしたね。

「それに、此処まで実力で上がってきた人間を落とすことはできん。

 他の役員たちは、お前が忖度(そんたく)のないよう、あんな写真を使って立場を偽り、実力で入社しようとしてきたんだと思って、感心しているしな」

 いや、単にあれしか写真が残ってなかったんですよね~……。

「仕方がない。
 会社に生息していてもいいから、ひっそりと生きてろよ」

 私は中庭の隅に居るカメかなにかですかね、と思う花鈴に、光一は言ってくる。

「あまり俺の前に現れないようにしろよ。

 さっきまで名前も知らなかったお前となんて、夫婦のようには振る舞えないからな。

 役員のみなさんには、会社でイチャつかないようにするために近寄らないと言っておくから」

 はいっ、と花鈴は最敬礼する勢いで返事をしたが。